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オバマのカイロ演説 ~言葉のチカラ

オバマのカイロ演説を聞いた。アラブ諸国に向け、静かにそれでいて熱く語りかける、会心の内容だったのではないだろうか。(スピーチ原稿はコチラ。)

冒頭から、"We meet at a time of great tension between the United States and Muslims around the world." と緊張感を漂わせて始める。そしてその後1時間に渡って、数多くの困難な問題について話を進める。9.11について、アルカイーダについて、アフガニスタンとイラクでの戦争について、イスラエル/パレスチナ紛争について、核兵器について、そして民主主義・宗教の自由・女性の人権について。


いずれも政治的にデリケートな内容であるが、彼の演説には(いつもの通り)、語りかける相手に対する、interest と respect が溢れている。代数や方位磁針といったイスラムの歴史的発明に触れ、イスラムの考え方がヨーロッパのルネサンスを導いたことに言及する。アメリカにおいても、建国の父トマス・ジェファソンの書棚にコーランが収められていたというエピソードを披露する。これらを単なる巧みなレトリックと批判する人もいる。でも、彼の言葉には力がある。彼の言うことに耳を傾けようという力だ。それは彼の出自や経験から来るものでもあり、その姿勢や眼差しから来るものでもり、何よりその interest と respect から来るものだと思う。

だから、"I've come here to Cairo to seek a new beginning between the United States and Muslims around the world."という彼の一番のメッセージも聴衆に深く届き、 "I am convinced that in order to move forward, we must say openly to each other the things we hold in our hearts and that too often are said only behind closed doors. There must be a sustained effort to listen to each other; to learn from each other; to respect one another; and to seek common ground." という台詞に大きくうなずくのだ。

そして、オバマは(これもいつものことだが)、自分と聴衆を、ここではアメリカとアラブ諸国を、同じ目線で同じ土俵に置き、そして同じ責任を「共有する」という意識を醸成するのがうまい。"I consider it part of my responsibility as President of the United States to fight against negative stereotypes of Islam wherever they appear. But that same principle must apply to Muslim perceptions of America. Just as Muslims do not fit a crude stereotype, America is not the crude stereotype of a self-interested empire."

この責任を共有するという姿勢が、「対話」の最も大切なポイントになるのではないかと、例えば日韓関係を思い浮かべながら感じた。お互いの遠慮や譲歩をそのままにするのではなく、一歩進めて言いたいことは言う、と同時にもう一歩進めて、その責任を共有する、という姿勢だ。国と国の関係も、人と人の関係も、そうありたいと願う。

今回の演説を聞いて思い出したのが、2004年党大会でのオバマの演説だ。そのときの状況と今とが著しく似ていることに気づいたのだ。5年前、彼が党大会で訴えたのは、アメリカ国内の断絶を解消することだった。民主党と共和党の断絶、人種間の断絶。こうしたアメリカ国内の深い亀裂を修復し、一つのアメリカとして再生しようというのが、彼のメッセージであり、それが多くのアメリカ人の共感を生んだのだ。

そして5年が経ち、彼は今度は世界の断絶に直面している。アメリカとイスラムの間に生まれた深い深い溝だ。だから、オバマはあのときと同じ信念で、融和/協調/連帯の必要性を切々と訴える。2004年の演説原稿を読み返すと分かるが、以下の内容は当時と全く同じものだ。それが彼の根底にある信念なのだ。"We were founded upon the ideal that all are created equal, and we have shed blood and struggled for centuries to give meaning to those words -- within our borders, and around the world. We are shaped by every culture, drawn from every end of the Earth, and dedicated to a simple concept: E pluribus unum -- "Out of many, one." "

新聞やニュースでは、今回の演説内容に総じて好意的ではあるものの、「言葉の次は行動を」という主張が続く。それはもっともなことだ。だが、裏返して言えば、「言葉は伝わった」ということでもある。そしてその言葉は、この5年間を振り返ってみても、オバマにしか発することができなかったものではないかという気がしてならない。彼は間違いなく、その言葉の力でもって、今、目の前にある重い扉を開けたのだ。僕はそのことに感動した。


2009/06/06(土) | President | トラックバック(0) | コメント(4)

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Suzuka.K

『No title』

久しぶり!元気そうで何よりです。
私もこのカイロ演説に心動かされました。とりあげてくれていたので嬉しくなっちゃってコメント(^^)。アメリカ人で聞きながら泣いてしまったというクラスメートもいました。

2009/06/10(水) 11:08:09 | URL | [ 編集]

tamago

『Re: No title』

> Suzuka.K さん
ハロー、お久しぶり!
うん、僕にとっても、カイロ演説とても印象に残りました。イスラムの友人に聞く機会がなかったのだけど、彼ら彼女らはどんな感想をもったのだろう。

2009/06/10(水) 14:03:46 | URL | [ 編集]

Suzuka.K

『No title』

今日ランチの時にコーランを暗記しているというパレスチナ人に聞いてみたので共有しますね。
「彼はこれまでの大統領とは違うと感じたし、彼の言葉は響いてきた。でも、発言内容は政治的なものかもしれないし、彼がどう動くかをみてみないと分からない。彼が実際にどう思っているのかもわからない。」
だそうです。

2009/06/12(金) 08:01:13 | URL | [ 編集]

tamago

『Re: No title』

なるほど。僕も今度、いま実家に帰ってしまっている、イスラエル人の友達に聞いてみようと思います!

2009/06/14(日) 13:57:44 | URL | [ 編集]

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