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留学前にやっておきたかった読書(日本編)

日本のことをもっと勉強しておけばよかったと、もちろん僕を含めて多くの日本人留学生が思っている。最初の自己紹介で、仲良くなった友人との会話の中で、親日家の方のホームパーティに招かれてと、日本について語るべき「機会」は多々ある。ただし、語るべき「内容」に困ることも同じくらい多くあるのだよ、残念ながら・・・。それは一重に自分の勉強不足であるから文句の言いようはないのだが、それでも話せることが「イチロー」と「ニンテンドー」くらいだったりすると相当恥ずかしい思いをすることになるワケである。だからアメリカに来てもまだ、いや来たからこそ、日本についてより多くを学ぼうと、僕らは考えているのである。

1.日本史

アメリカで感じる日本への関心とは、戦後の制度改革、高度経済成長、バブル崩壊の3つではないかと思われる。もちろん漫画やアニメも話になるがその話題は思いのほか限定的であるように感じられ、実際には上記3点に関連して質問されたりすることが多いのではないだろうか。それは日本の戦後統治と現在のイラク情勢を重ねてのことであったり、バブル後の日本の金融政策に何かしら学ぶべきことはないかという視点からだったりするものだ。と同時に、いまだに日本が経済成長を続けていると思ってくれているゴキゲンなアメリカ人も(たまに)いらっしゃる。

戦後の国づくりについては関連書も多々あるが、僕は白洲次郎を通して見るのが好きだ。あれだけのノブレス・オブリージュを心の内に持ち、「戦争に負けたのであって奴隷になったのではない」と直截述べ、GHQに「従順ならざる唯一の日本人」と言わしめた気位の高さ。彼は日本国憲法の制定だけでなく、サンフランシスコ講和条約の締結、そして国内産業の振興を目指した通商産業省の設立等、まさに廃墟からの国づくりに深く関わっていく。弱気を助け、強気を挫くその姿勢は終生変わらず、だからこそゴルフ場のキャディさん等から絶大な人気を誇った。その潔さの極みは、彼の遺言「葬式無用、戒名不用」に端的に現れている。今から盛大な生前葬の企画とスピーチの構想に余念がないボクのような俗物からすると(笑)、もはや信じられないほどの高みにまで達している人物なのである。

日本人の間に根強くある白洲次郎の人気ぶりは、現在何度目かのブームを迎えている坂本龍馬のそれと同質のものと言ってよい。それは国づくりにかけた彼らの情熱に対する憧憬であり、そんなリーダーが今の時代にも現れないかという期待であり、そしてそんな願いが叶うことはないと知っている諦めでもある。僕らはずっと前から知っているのだ、龍馬や次郎のような人物がもう二度と現れることはないのだと。だから余計に彼らを題材にした小説やドラマにのめり込み、彼らと自身とを重ね合わせようとする経営者や政治家に冷ややかな視線を送る。

北康利の『白洲次郎 占領を背負った男』は、それまでの白洲伝の傑作、青柳恵介『白洲次郎 風の男』を遥かに凌ぐボリュームであり、かつ人物の描き方が事細かに素晴らしい。司馬遼太郎『竜馬がゆく』を超える竜馬伝を想像するのが困難であり、そこにチャレンジする者が現れないように、北康利以前に『風の男』以上の次郎を思い描くことはほぼ不可能であったと言ってもよいだろう。だから彼の渾身の一作は、そこに挑戦する者がついに現れたという点、それが見事なまでの結果を残したという点、そしてその著書が証券会社に勤めるアマチュア文筆家であったという点で、三重の衝撃を与えたのだ。本書は日本人として読むべき一冊。次郎の人物と同時に著者の筆致に素晴らしいの一言。『ポスト戦後社会』と『日本経済の罠』は現在読んでいるところ。


ポスト戦後社会―シリーズ日本近現代史〈9〉 (岩波新書) 日本経済の罠 (日経ビジネス人文庫)


2.日本人

1894年、日清戦争
      内村鑑三 "Japan and The Japanese" 発表 (邦題『代表的日本人』)
1900年、新渡戸稲造 "Bushido" 発表 (邦題『武士道』)
1902年、日英同盟
1904年、日露戦争
1906年、岡倉天心 "The Book of Tea" 発表 (邦題『茶の本』)

日本がまさに「坂の上の雲」を目指して世界の舞台に駆け上がった明治の時代、日本の考えを世界に示すこともまた重要な国家的使命であった。そんな時代背景のもと、英語で書かれた文章の代表作が、内村鑑三、新渡戸稲造、岡倉天心の三冊である。だから日本語で読もうとすると、別の日本人が訳した翻訳版という扱いになる。彼らが自身の思いの丈をどういう英文に込めたのかを少しでも知るという意味では、やはりオリジナルの英文を味わうのが筋というものだろう。彼らの人となりについては、松岡正剛の解説がよい。

内村が選んだ5人の「代表的日本人」は、西郷隆盛、上杉鷹山、二宮尊徳、中江藤樹、日蓮。この5人が現代のアメリカで広く知られている、なんて話は聞いたことがない(笑)。だから本書は一世紀以上を経て、今は日本人こそが読むべき一冊なのかも知れない。『武士道』は「サムライ」という単語とともに知られていることもあるが、基本的には「フジヤマ」「ハラキリ」と同程度の理解しか期待できない。そう考えると、実はアメリカ人(のとくにインテリ層)にきちんと知られているのは、岡倉天心と「茶」についてかも知れない。それは前にも書いたように、岡倉天心がボストン美術館に勤めていたこととも大いに関係するだろう。アメリカ人に岡倉や tea ceremony について聞かれることがあっても、さらりと上品かつ優雅にお答えできるよう準備しておきたいものである。

対訳・代表的日本人 武士道 (講談社バイリンガル・ブックス) 英文収録 茶の本 (講談社学術文庫)



3.日本語

英語で生活すればするほど、ますます日本語というものを意識するようになる。そんな留学一年目にタイムリーに出版されたのが、以前書いた水村美苗『日本語が亡びるとき』だった。著者の見通しに必ずしも賛同するわけではないが、自分なりに日本語との付き合い方を再考する一冊となったのは間違いない。だから、その反論の書でもある金谷武洋『日本語は亡びない』も合わせて刺激的に読めるだろう。研究に携わる限り英語が共通言語であることに異論はないのだが、だからといって日常的に使う言葉まで英語になるだろうか?個人的な例で言えば、留学してきたからこそ日本語でブログを書き、日本のニュースを毎日きっちりチェックし、YouTubeでしっかり日本のお笑いをフォローしているワケである(苦笑)。日常レベルでの英語との付き合い方は、僕個人にとっても引き続き頭を悩ませる課題なのだ。『日本人の知らない日本語』はフツーに面白くて、くすりと笑いながら読んでしまった。


日本語は亡びない (ちくま新書) 日本人の知らない日本語



2010/06/21(月) | Books | トラックバック(0) | コメント(0)

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