若き経済学者のアメリカBooks ≫ 留学前にやっておきたかった読書(ココロ構え編)

留学前にやっておきたかった読書(ココロ構え編)

過去にアメリカに留学したり、現在もアメリカで研究を続けている先達の著書は、大きな励みであり、心の支えである。彼らが当時感じた不安や閉塞、そして希望と飛躍は、時代を超えて今なお共有できることだ。

「若き数学者」藤原正彦はミシガン大学の研究員として、恵まれた環境の中、最先端の数学研究に従事する。自身の研究成果発表や、世界一流の研究者とのコミュニケーション等々、いくつもの課題に試行錯誤を重ねながら、それらの困難をひとつひとつ乗り越えていく。武者修行エッセイである『若き数学者のアメリカ』にあるその様は、若々しさと躍動感に満ち溢れ、いつ読み返しても引き込まれてしまう。

その彼が苦しめられたのが、太陽の見えない季節。どんよりとした曇り空の下、コンクリートで閉ざされた研究室や寮の中で、次第に孤独感に苛まれていく。そのどうしようもない不安感がようやく解消されたのが、フロリダの大地。思い切り陽の光を浴び、淡い恋も経験して、ようやく閉じ籠っていた自身から解放される。アメリカという世界の中で必死に生きる等身大の若者を描いた一冊。イギリスへ留学するなら、同じく藤原正彦著『遥かなるケンブリッジ』が面白く読める。


若き数学者のアメリカ (新潮文庫) 遥かなるケンブリッジ―一数学者のイギリス (新潮文庫)

経済学の分野では、青木昌彦『人生越境ゲーム』。安保闘争に身を投じ、巣鴨拘置所に身を預けた学生時代から話は始まる。そこから近代経済学へ転向し、ミネソタ大学留学、スタンフォード大学就職を経て、その後活動の中心人物となって創設した「知的ベンチャー」が本書のテーマだ。そこには、スタンフォード日本センターや、経済産業研究所(RIETI)、仮想制度研究所(VCASI)も含まれ、氏のバイタリティ溢れる挑戦の数々が迫力を持ってせまってくる。

と同時に、アメリカのアカデミアにおける闘争の様も垣間見える。第4の「知的ベンチャー」として立ち上げた、スタンフォード大学での比較制度分析(CIA)のフィールド。第一級の研究者を集め学際的に取り組み、成果も出ていた最中、ある助教授のテニュア審査を巡って教授会が紛糾する。それは、アメリカの学界において、いかに自分の研究分野や手法を広げるか、激烈な競争が繰り広げられている証でもある。そして、そこで生き抜くには「その圧力に負けないだけの強靭な意志力と持続力が必要」という指摘は、これだけの結果を残してきた彼が言うからこそ一層重く響く。

青木昌彦のもう一つの半生記『移りゆくこの十年 動かぬ視点』からも、人間や社会に対する氏の並々ならぬ関心や洞察が伺える。とくに巻末に収録されているスピーチ原稿が素晴らしい。若くして亡くなった研究仲間へ送った言葉には「強靭な意志力と持続力」で新しい分野に取り組んできた姿勢に対する敬意が、そして大学卒業式での送辞にはそうした意識で新たな未来を切り拓いていこうという応援が、それぞれ力強いメッセージで届けられていた。


私の履歴書 人生越境ゲーム 移りゆくこの十年 動かぬ視点 (日経ビジネス人文庫)



サイエンスからはMITメディアラボ教授、石井裕を収録したNHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』と『我らクレイジー・エンジニア主義』。以前書いたように、彼の言葉には、アメリカの研究最前線で生き残る緊張感が満ち、僕はそれを食い入るように何度も何度も読み返す。

石井裕の過去の連載インタビュー講演からも、彼の研究哲学がひしひしと伝わってくる。その中から、日本の若手研究者に向けたメッセージを抜粋しておきたい。サイエンスであろうとそれ以外の分野に進もうとも、いつも心に留めておくべき言葉ではないだろうか。

1つ目は、研究者にとって「オリジナルであることが命」だということ。後追いの研究や改良型の研究には向かわずに、革新的な研究にのみエネルギーを傾注する。これが大切な戦略だ。

2つ目は、徹底的に「なぜ?」という問いを発して研究の本質に迫ることだ。何度も何度も浴びせられる「なぜ?」という問いにしっかりと答えていくうち、アイデアが磨かれて人は成長する。

3つ目は人いち倍の努力。平均的な研究者の2倍働き、3倍の成果を出して初めて対等にみてもらえる。これが競争社会の厳しい現実だ。私の場合、プライドと屈辱感がその原動力になっている。屈辱感を前に向けて走り続けるエネルギーに変換することが、過酷な競争を生き抜くカギだと思うのだ。



プロフェッショナル 仕事の流儀〈13〉 我らクレイジー☆エンジニア主義 (中経の文庫)



2010/06/17(木) | Books | トラックバック(0) | コメント(0)

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