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留学前にやっておきたかった読書(アメリカ編)

重い荷物になるにも関わらずたんまり持ってきてしまったアメリカ本。それでもやはり持参した価値はあったと自信を持って言えるのが以下の本たち。アカデミックというフィルターを通して見えるアメリカは、国際性に溢れ、リベラルな考えに満ち、教授の家は豪邸だ。しかしそのフィルターを外してしまえば、全く異なる世界がそこにあるようでもある。パスポートを持ったことすらないアメリカ人、信仰に根ざした排他的な考えを持つ者、それこそ近づくことすらできない絶望的な貧困街が日常的にある。そして、これもまたアメリカ。「平均」とか「一般」という言葉を受け付けない社会があり、大きく極端へ振れるエネルギーと極同士の衝突、それがこの国の推進力であるようにも思えてくる。

1.アメリカ社会

以前書いた『アフター・アメリカ』と、これも前に書いた『アメリカン・コミュニティ』、渡辺靖のこの2冊には、まさに平均からは程遠いアメリカのコミュニティが描かれている。と同時に、「アメリカとは」という定義づけを拒み、常に新たな一面を生み出し続ける「カウンター・ディスコース」(対抗言説)こそがアメリカの力強さであると結論づけている。著者自らが述べるように「親米でもなく嫌米でもなく」そこで見たものを中立的に記録する姿勢だからこそ、今度はその地に自分が立ち、自分の目で確かめてみたくなるのだ。『アメリカン・コミュニティ』の中でも取り上げられている「メガチャーチ」を訪ねてみた僕自身の記録はコチラ(1, 2, 3, 4, 5)から。矢口・吉原『現代アメリカのキーワード』もこの国の現代社会を理解する上で役立ったのは以前書いた通りだ。

アフター・アメリカ―ボストニアンの軌跡と<文化の政治学> アメリカン・コミュニティ―国家と個人が交差する場所 現代アメリカのキーワード (中公新書)


2.アメリカ史

いつも丁寧な解説が分かりやすい池上彰。彼の『そうだったのか!アメリカ』もその例に漏れない。著者の視点が色濃く現れているとは言え、「宗教」「連邦国家」「メディア」といった9つの切り口でアメリカが描写される。ただ個人的には、一つの国の成り立ちを縦に追うことよりも、国家同士の関わりと横に広がる連鎖反応を紐解くときにこそ、著者の強みが発揮されるように思う。その意味では、冷戦が終わる前後数年の間に世界が大きく動いた歴史と、その中でアメリカという国家が果たした役割を整理した、『そうだったのか!現代史』と合わせて読んでよかった一冊。

そうだったのか! アメリカ (そうだったのか! シリーズ) (集英社文庫) そうだったのか! 現代史 (そうだったのか! シリーズ) (集英社文庫)


有賀夏紀『アメリカの20世紀(上・下)』は、「アメリカの世紀」と称される20世紀を生み出したアメリカ社会の変化と発展に焦点を当てたもの。とくに社会の中心を成していた思想や運動を年代別にまとめた視点が、アメリカという国のダイナミズムとカウンター・ディスコースを知るのに役立つ。例えば1920年代は「大衆消費社会」。大恐慌を迎えるまでの1920年代は、アメリカにとっての黄金時代。1922年にはフォード・モデルTの量産がピークを迎え、1928年にはクライスラービルが着工する。未曾有の景気に沸いた、まさに mighty America の時代だった。しかし、禁酒法に代表されるように、こうした新しい潮流や価値観に対する反抗が著しかったのもこの時代だ。物質主義に毒されると言い残してアメリカを去ったヘミングウェイや、『グレート・ギャツビー』でアメリカ社会の魅力と残酷さを描いたフィッツジェラルドが生きた時代でもある。

アメリカの20世紀〈上〉1890年~1945年 (中公新書) アメリカの20世紀〈下〉1945年~2000年 (中公新書)


阿川尚之『憲法で読むアメリカ史(上・下)』は、憲法修正を巡る議論というユニークな視点からアメリカ史をまとめてみせた一作。池上彰の9つの切り口の一つにも「裁判」があるように、そして数多くの弁護士・裁判映画が制作されているように、アメリカは間違いなく訴訟社会である。だからこそ社会の基盤となるルールの制定と運用には厳しい姿勢で臨むことになる。そしてそれがアカデミックの世界でも変わらないことは、キックアウトを題材にして以前書いた通りだ。本書の中では、先住民から土地を強奪したことは合憲なのか、奴隷制度をどう位置づけるかといった歴史的なことから、経済活動に対する規制やブッシュ対ゴアの大接戦の大統領選挙結果といった今日的な事柄まで、国政を方向付けてきた憲法解釈を巡る最高裁判例が並ぶ。それはまさに著者が指摘するように、最高裁の判例そのものが「アメリカ史の貴重な記録」であり、アメリカのもう「ひとつの物語」でもあることを十分に納得させる内容だと言えよう。

憲法で読むアメリカ史(上) (PHP新書) 憲法で読むアメリカ史 下 PHP新書 (319)


3.アメリカ政治/アメリカ人

アメリカの政治に関する本も何冊も読んだ。二大政党制や大統領選挙といったシステムを解説するもの、建国以来の政治史を概観したもの、ブッシュやオバマ等近年の政治問題を取り上げたもの等々。でも結局のところ僕が一番ワクワクしながら読んだのは、政治家の自伝である。自伝を出すことによるビジネスや各方面へのアピールを考えれば、ある程度の脚色こそあろうが、それでもなおその時代のリーダーとして生き、新しい時代を切り拓こうとした彼らの哲学と行動には今も学ぶことが多いのではないかと感じる。

オバマの自伝は同じ時代を生きる者として読んでおくべきと思っていたのだが、アメリカ人のとくに年配層と話していて感じたのが、彼ら彼女らの心の中で今も色鮮やかに生き続けるケネディに対する愛情である。暗殺から47年。確かに当時二十歳前後でケネディの若々しいリーダーシップに心酔した層も、まだ67歳なのである。その意味で、ケネディはまだ歴史ではない、ということをアメリカに来て強烈に印象づけられた。と同時に、アメリカでも膨大に出版されているケネディ関連の書籍・雑誌・写真集などを一式渡されて「あなたもケネディについてもう少し勉強しなさい」と言われたことも一度や二度ではない。それほどの存在感が今もここにあるのだ。

マイ・ドリーム―バラク・オバマ自伝 勇気ある人々


アメリカ人と日本人の間で、同じように知名度がありかつ尊敬されているアメリカ人というのは、実はそんなに多くはないのかも知れない。例えば、ペリーもマッカーサーも、(当然のことながら)圧倒的に日本での存在感が際立っているわけだ(その上、尊敬されているワケじゃないし)。フルブライトはそんな、決して多くはないうちの一人に入るだろう。そしてそれだけでも、留学生の奨励を通して国家間の相互理解を目指した彼の功績が見てとれるようである。アメリカでもフルブライト奨学金は、ローズ奨学金と並んで讃えられるものだ。だからワレワレ日本人留学生も、奨学金に落とされたからといって「フルブライト許さねぇ」とか叫んではいけないのである(笑)。落選してもなお、「私は彼の理念を尊敬しています」と仏の心で言えるならば、アメリカ人の友人知人からの尊敬を勝ち得ること間違いなしなのである(多分)。

権力の驕りに抗して―私の履歴書 (日経ビジネス人文庫)




2010/06/19(土) | Books | トラックバック(0) | コメント(0)

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