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チャータースクール効果

1991年にミネソタ州で始まって以来その是非について議論が続くチャータースクールだが、Hoxby (2004) の実証論文は、行政・教育関係者からの注目も高かった。これは、全米99%のチャータースクール(小学校)を調査対象としており、実質全てのデータを揃えたという点でインパクトのあるものとして受け止められた。分析手法は、チャータースクール生徒の成績と、従来の公立校生徒の成績を比較するというシンプルなものであり、比較対象とする従来校には各チャータースクールの生徒が入学する可能性が高かった学校(近隣で人種構成が近いもの)が選定されている。

結果は、いずれもチャータースクールの効果・優位性を示すものであった。具体的には、算数テストで合格レベルにある生徒の比率で3.2ポイント、国語(英語)テストでは5.2ポイント、チャータースクールが従来校を上回るという結果である。それに加え、設立からの年数が長く、州からの予算が大きいチャータースクールほど、従来校に差をつけているとの結果をもとに、チャータースクール支援に積極的な州ほど生徒の成績が高い傾向にあると結論付けている。

これに反発したのが従来の公立校関係者。「ちょっと待てい。その比較そのものがおかしいじゃないか?」と。彼らの言い分は、そもそもチャータースクールに子供を通わせる家庭は平均よりも教育熱心であることが多いだろう。もともと教育環境がよく成績の優秀な子がチャータースクールに入学しているだけではないのか。であれば、調査結果は必ずしもチャータースクールの授業や教員の質のよさを示すものではないだろう、と。

これはもっともな指摘で、selection bias と呼ばれる問題だ。説得力のある比較対象グループを定義するのはなかなかに厄介で、他の多くの論文でも批判を受けやすい部分である。それに対し Hoxby 女史が何と言い返したのかは知らないが、彼女の反論は翌年に出た別の論文に明らかだった。Hoxby and Rockoff (2005) は、randomization をもとにチャータースクールの効果を分析した最初の論文になる。

チャータースクールは自由度が高いとはいえあくまでも公立校であるため、入試による選抜はなく希望者を全て受け入れるのが基本だ。しかし、応募人数が募集数を超えた際には抽選により入学者が決まる。この抽選結果という randomization に注目したのが Hoxby らであった。ランダムな抽選である限り、受かったグループと落ちたグループでは、人種や家計収入といった観察可能(observable)な変数だけでなく、教育に対する関心・モチベーションといった観察不可能(unobservable)な変数においても、有意差があるとはいえないと考えられる。両グループの間にある差異は、チャータースクールに入学したか否かだけであり、そのため成績の差もチャータースクールが要因だと考えるのが妥当であるということだ。

Hoxby and Rockoff (2005) は、シカゴのチャータースクールを対象に、その抽選結果を用いて selection bias の問題を回避した。そしてその結論は、やはりチャータースクール優位を示すものであった。同じテストを受けた結果、チャータースクール生徒(抽選合格者)は従来の公立校生徒(抽選不合格者)に比べ、算数で6.4ポイント、国語(英語)で5.6ポイント高いパーセンタイルとなった。

しかし今度はまた別の批判が寄せられる。「まだまだ待てい。納得いたしかねる」と。今度の批判の一つは、チャータースクールの多様性に関するもの。そもそもチャータースクールは地域住民の要望に応じて独自の理念やカリキュラムを掲げて設立されているため、地域差が大きい。だからシカゴで示された結果がそのまま他都市に当てはまるとは言えないだろう、というもの。もう一つの批判は、従来校に比べて授業時間やテスト回数が多いチャータースクールでは、生徒へのプレッシャーが強く、落ちこぼれた生徒がドロップアウトする確率も高い (attrition bias) のではないか、というもの。これらの批判ももっともな指摘であろう。Hoxby 女史が何と応えたのかはやはり知る由もないが、「やれやれだぜ」(承太郎風)と心の中で舌打ちしたことは想像に難くない。それ以降、分析手法に大きな変化はなく、異なる地域や学校を対象とした研究が続いている。

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Hoxby, C. (2004), "Achievement in Charter Schools and Regular Public Schools in the United States: Understanding the Differences", (Working Paper)

Hoxby, C. and J. Rockoff (2005), "The Impact of Charter Schools on Student Achievement", (Working Paper)



2010/07/23(金) | Economics | トラックバック(0) | コメント(0)

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