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チャータースクール効果2

アメリカのチャータースクールの多くは、低収入の黒人またはヒスパニック層を想定して設立されるが、それはニューヨーク市でも変わらない。下表 (Hoxby and Murarka (2009)) に示されるように、ニューヨーク市全体の平均と比べると、チャータースクール周辺の居住地区はとくに黒人比率が高く、かつ両親の学力と収入は低い。

Hoxby2.jpg

このニューヨーク市を対象に、チャータースクールと従来の公立校を比較したものが Hoxby and Murarka (2009) だ。2005年度時点で開校していた47校のうち42校からデータを取っており(応募者数全体の94%)、カバー率は極めて高い。Hoxby and Rockoff (2005) と同様に、応募者に対する抽選結果を IV (instrumental variable) として用いて、チャータースクールに入学することが標準学力テストに及ぼす効果を推定している。結果は、チャータースクールで過ごす一年間によって、算数テストで標準偏差が0.09、英語テストで0.04 高まるというものだ。正の効果があるのは確かだが、その大きさはさほどではない。チャータースクールの多くが従来校を相当上回る授業時間を確保していることを考えると、もう少し大きな効果があるのではと関係者は期待していたのではないだろうか。

成績が悪い生徒のドロップアウト率が高いために、成果が出ているように見えているだけではないのか、というチャータースクール批判 (attrition bias) に対しても答えている。抽選合格者と不合格者、入学者と入学辞退者をそれぞれ比較し、男性・女性別、人種別、学力別に見ても、両者のドロップアウト率に有意差があるとは言えないことを示している。

決して大きくはないが、確かにチャータースクールの効果はあるというのが結論だが、何がその要因なのかという議論になると、明らかにできないことが多い。グレートティーチャーがいるのかも知れないし、授業の進め方が優れているとも考えられる。分かりやすい独自の教材が功を奏したかも分からず、単に授業時間が長いためということもあり得る。しかしこれらの要素を個別に分解することは極めて困難である。何しろグレートティーチャーは往々にして、オリジナル教材でサプライズ満載の授業をロングランでやったりするわけだからね。


さて、これに関連が深い論文が Abdulkadiroglu et al (2009) だ。ここではボストンのチャータースクールが対象となっている。Hoxby and Murarka (2009) と同様の手法を用い、より大きなチャーター効果を明らかにしている。具体的には、チャータースクール(中学校)に一年通うことで、数学テストの標準偏差を0.41、英語テストでは0.15押し上げること、かつ高校の場合には数学で0.27、英語で0.19高める効果があることを示している。

Hoxby and Murarka (2009) で示されたニューヨークの結果に比べて大きな値を示しているが、これは必ずしもボストンのチャータースクールが優れているというわけではない。著者らが指摘するように、本論文ではボストンにある24のチャータースクールのうち9校のみが調査対象となっている。これはそれ以外の学校への応募者が許容数を下回っており、そもそも抽選が行われていないためである。抽選を実施している9校はボストンのチャータースクールの中でも人気校と言えるわけで、そもそも学力の高い学校という偏りがあるかも知れないのである。今後他校への応募が増え、入学のための抽選が実施されるようになれば、ニューヨークと同程度の結果に落ち着くということも十分に考えられるのだ。


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Hoxby, C. and S. Murarka (2009), "Charter Schools in New York City: Who Enrolls and How They Affect Their Students' Achievement", (NBER Working Paper)

Abdulkadiroglu, A., J. Angrist, S. Dynarski, T. Kane, and P. Pathak (2009), "Accountability and Flexibility in Public Schools: Evidence From Boston's Charter and Pilots", (NBER Working Paper)



2010/07/26(月) | Economics | トラックバック(0) | コメント(0)

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