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新書で学ぶゲーム理論

読むのを楽しみにしていたのが、松井彰彦『高校生からのゲーム理論』。

社会科学を塗り替えつつあるゲーム理論は、「人と人のつながりに根ざした理論」である。環境問題、三国志、恋愛、いじめなど、多様なテーマからその本質に迫る入門書。


前著『市場(スーク)の中の女の子』と『向こう岸の市場』に見られるように、物語を通じて「市場」を理解させるのが著者ほど巧みな書き手はいないだろう。その意味で、本書『高校生からのゲーム理論』のメインは「第三章 市場編」で、新美南吉の絵本『手ぶくろを買いに』を通して市場の本質を語るところだと思う。そしてそこから話題は、正社員と非正規社員との間の格差問題、そして北海道の航空会社エア・ドゥの破綻へと広がる。エア・ドゥの新規参入戦略および価格戦略を展開形ゲームで分析したものは、実際のビジネスト上の意思決定を簡潔に表現している点で興味深い。だが、それはあくまでも練習問題的な内容であり、著者の主張もっと言えば著者の「思い」がこもっているのは、正規・非正規の格差の問題の方だ。著者曰く、「格差問題の本質は、年功制によって組織に守られている正社員と、市場で戦い続けねばならない非正社員との間に昔からある『身分差』が長期経済停滞の下で表に出てきたことにある。そして、日本の場合、法制度がこの格差を助長している。(中略) 強い人こそ身内優先主義を捨て、宮沢賢治の言葉に体現されているような『世界がぜんたい幸福にならないうちは、個人の幸福はあり得ない』という東洋的宇宙観を持つべきかもしれない。強い人も今の社会・経済制度の中で強い立場に置かせてもらっているだけであり、『本当の幸い』は格差が解消しなければ得られないという認識が必要である」。

宮沢賢治の言葉を引きつつも、精神論ではなくあくまでロジックでこの問題を論じている点に、著者の思いと強さを感じる。また、この問題は、大竹文雄『競争と公平感』の中でも、「Ⅲ-1 正社員と非正規社員」という一節を充てて論じられている。大竹の視点は、「『非正規切り』に象徴されている問題は何だろうか。それは、雇用の二極化という不合理な格差が生み出す社会全体の不安定化であり、閉塞感である」というものであり、「その解決の先にある目標は二極化ではなく、良い仕事を増やす、つまり平均的な中間層を増やして経済全体の雇用量を安定的に推移させることと設定されるだろう」と続ける。そして、そのために必要になる手立ては「非正規雇用への規制強化ではなく、正社員の既得権益にメスを入れることである。具体的には、正社員に与えられた強すぎる解雇規制を緩和し、正社員と非正規社員の間の雇用保障の差を小さくすることだ」と、一歩踏み込んだ提言をしている。

松井と大竹に共通するのは、市場という大きなフィールドにおいて、フェアなルールを整備することが重要だという指摘だろう。そんな思いが詰まった本書は、福島県立相馬高校の生徒と松村茂郎先生が松井ゼミを訪ねたことが一つのきっかけだったそうだ。相馬高校のみんなから感じた「わくわく感」を、読者に伝えたいという思いで本書が誕生したのだが、その「わくわく感」は高校生以上の僕たちにも十二分に伝わっていると思えるほどに、期待どおり読み応えのある一冊だった。








2010/08/30(月) | Economics | トラックバック(0) | コメント(0)

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