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新書で学ぶ通貨とユーロ危機

15年ぶりの円高水準というのは、留学生活にももちろん大きな影響を及ぼす。とくに、これから留学し生活セットアップ等の初期投資が必要な人や、ビジネススクールのように学費負担が大きい場合には、この円高の恩恵を大いに受けることができるだろう。しかし、既に留学を開始し、学部から stipend (俸給)をもらうようになると、生活は全てドル建てで回るようになる。だから、円資産を潤沢に持っていない限り円高メリットを享受することはほとんどないのである。残念。というよりもむしろ、日本への一時帰国の場合などには、逆にデメリットになってしまうわけだ。無念。ところで面白いことに、ドルで暮らすようになってからは「円高」では今ひとつ実感が沸かなくなり、「ドル安」という表現の方がしっくりくるのだ。さて、そんな歴史的な円高ドル安の時期にタイムリーに上梓されたのが、『通貨を読む 〈第3版〉』と『通貨で読み解く世界経済』だ。

まずは『通貨を読む』。

ドル、円、ユーロ、元の四大通貨について、いま置かれている状況、歴史的経緯を豊富なエピソードとともに語る。通貨レートはどうやって決まるのか?経常収支と資本収支、金利水準、世界のお金の流れなど、為替の決定メカニズムをわかりやすく解説。第3版ではリーマン・ショックを契機としたドル基軸通貨体制の揺らぎ、ギリシャから始まった欧州の金融・財政危機、人民元切り上げ問題など、最新のニュースを取り上げた。


もちろん円やドル、元についても十分な解説がなされているが、このタイミングで読むならやはり、ギリシャから始まったユーロ危機の項目がもっとも興味深く読めるだろう。日経新聞編集委員の手によるものだけに、プロローグおよび第一章「ユーロ危機のドミノ倒し」において、ギリシャ/ドイツ/EU/格付け機関/IMF等々のプレイヤーがいつ何をどう意思決定したかというニュース整理が分かりやすい。


続いて『通貨で読み解く世界経済』。

通貨が経済に与える影響は甚大だ。国家の財政、内外の金融、企業業績、そして人々の生活さえも為替の動向と無縁ではない。世界金融危機以後、不安定さを増した金融システムと経済の動きを精緻に検証し、ドル覇権の行方、ユーロ圏の諸問題、人民元や円の未来を見極める。複雑に絡み合う“通貨”“実体経済”“財政金融政策”の三つ巴を歴史を踏まえて読みほどき、世界経済の持続的成長のためにいま何をなすべきか考える。


本書の読みどころもやはりユーロ関連だと思うが、先の『通貨を読む』で整理された内容を、国際マクロ経済学の視点から分析したものが本書だ。「資金の自由な移動」「為替の安定」「国内金融政策の自由度確保」の三つを同時に満たすのは困難という国際金融のトリレンマを前に、前者二つを選択し最後の一つを犠牲にして成立しているのがユーロの通貨統合である。統合のメリットはもちろん大きいが、各国独自の金融政策や為替調整を行うことができないというデメリットも無視できない。というよりも、そのデメリットが表面化したのが今回のユーロ危機である。具体的には、ドイツでは断続的な労働コスト縮減により国際競争力を高めてきたのに対し、ギリシャでは4人に1人が公務員という特性から労働組合の力が強く、労働生産性以上に賃金が上昇し財政は逼迫していった。しかし、ユーロ参加国間でこれだけ国内マクロ経済が異なってしまっても、ギリシャはユーロ圏にとどまる限り「為替の切り下げで輸出を増加させるという回復シナリオ」を描けないのである。

本書の結論は明快だ。「国内金融政策の自由度確保」を犠牲にして成り立つ通貨統合をスムーズに運営するためには、より一層の「政治統合」が必要不可欠だということである。著者らは「ユーロの現状はまだ、最適通貨圏の条件を満たしていない」と指摘する。そして今後は、国境を越えた労働移動に関する規制を緩和し、ユーロ参加国間での財政面での移転の仕組みを整備し、(母国主義ではなく)国際的に連携して金融機関を監督していくことを提言する。もちろんそれがどれだけ険しい道のりであるかは言うまでもない。通貨統合という金融史上最大級のチャレンジは、まだ道半ばにすら到達していないのかも知れない。





2010/09/01(水) | Economics | トラックバック(0) | コメント(0)

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