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新書で学ぶ世界経済史

400ページを超える分厚い新書、猪木武徳『戦後世界経済史』。

第二次大戦後の世界は、かつてない急激な変化を経験した。この六〇年を考える際、民主制と市場経済が重要なキーワードとなることは誰もが認めるところであろう。本書では、「市場化」を軸にこの半世紀を概観する。経済の政治化、グローバリゼーションの進行、所得分配の変容、世界的な統治機構の関与、そして「自由」と「平等」の相剋―市場システムがもたらした歴史的変化の本質とは何かを明らかにする。



新書としては相当のボリュームとなっているのは、本書が「第二次世界大戦後から二十世紀末までの世界経済の動きと変化を、データと経済学の論理を用いながら鳥瞰する」というチャレンジングな目的を掲げているためである。「鳥瞰」する視点は次の5つだ。1つ目は市場の浸透と公共部門の拡大。とくに米国の公共部門拡大と財政面の中央集権化に触れつつ、政府権力の拡大と集中を戦後世界の政治経済上の大きな変化と位置づける。2つ目の視点はグローバリゼーションと米国の時代。これまでにも多々言及されてきた通り。3つ目の視点は所得分配の不平等。グローバリゼーションが貧困を招いたという意見には与さない。また、富裕層が増えることよりも「ほどほどに所有している人々」が広く厚く形成されているかどうかの方が重要であるというのが著者の主張だ。4つ目の視点がグローバル・ガヴァナンス。国連やIMF等の国際機関やサミット等の国際会議を例に出し、世界経済のガヴァナンスが、米国の政治的・経済的地位の相対的な低下と共に弱体化していると指摘する。5つ目の視点が市場の設計と信頼。アダム・スミスの考えに基づき、市場化の進展が人々の思考を短期化し、相互信頼感を弱めるような風土を作り上げたと述べ、多くの現代人が重要政策課題として挙げる「安全」「安心」をどう提供していくかという点を問題意識としている。

戦後から二十世紀末までという時間軸と、ラテンアメリカやアフリカ経済にまで目配せした広範囲なトピックだが、個人的な読みどころは、戦後の新しい世界経済レジームを形成するブレトン・ウッズ体制とマーシャル・プランの意義と効果、および東西冷戦という枠組みを描写した「第二章 復興と冷戦」と、著者の視点が色濃く現れる「第五章第4節 新自由主義と『ワシントン・コンセンサス』」および「第六章第3節 経済統合とグローバリズム」あたりだろう。ヨーロッパの経済統合やアジアの地域統合にも触れているが、このテーマであれば「ユーロ」と「元」という通貨の歴史と将来性およびその限界について整理した別の新書2冊と比べながら読むことができる。


さらに長期の視点で世界経済を俯瞰するなら『10万年の世界経済史』。経済史上のブレイクスルーとなるイギリス産業革命に焦点を当て、これ以降所得は急増し絶対的な豊かさを手に入れる一方で、他者との比較から得る幸福感は旧石器時代と何ら変わらないと結論付けている。

マルクス『資本論』、スミス『国富論』、ダイヤモンド『銃・病原菌・鉄』に匹敵する、人類の「ビッグ・ヒストリー」を描いた本書は、膨大な歴史資料を分析して大胆な仮説を提示した気鋭の計量経済史家の問題作である。その問題意識は2つある。一つは技術進歩が人口の増加によって打ち消される「マルサスの罠」の時代がなぜ紀元前から1800年まで続いたのか、もう一つは英国が先頭を切った産業革命を期に、「マルサスの罠」を脱却して経済成長を果たした先進国と、サハラ以南のアフリカのように停滞したままの国が「分岐」したのか、である。






2010/09/17(金) | Books | トラックバック(0) | コメント(0)

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