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ユニクロ柳井正の経営哲学

『考える人』編集長・松家仁之のラブレターに応えた柳井社長。それは現在、雑誌『考える人』への一社単独広告へと繋がっている。そしてまたその広告が、商品ではなく企業メッセージを伝える内容となっているため、それが雑誌の品格にも貢献しているように感じられる。そんな縁で結ばれた二人はその後、松家編集のもと柳井正『一勝九敗』を出版することになる。本書ではその書名にあるとおり、実に多くの失敗が語られる。スポクロ、ファミクロというブランド展開の失敗、大阪アメリカ村での都心型第一号店の失敗、海外初進出のイギリス市場での失敗等々だ。そして続く著作『成功は一日で捨て去れ』では、「最新の失敗」が語られてゆく。具体的には、中国進出に際しての失敗、野菜販売事業「エフアール・フーズ」からの撤退、そして後継者育成の頓挫といったものだ。

これだけ多くの失敗例を次から次へと並べられると、流石にその迫力はケタ違いだ。と同時に、これだけ失敗しながらよくも今まで企業として生き残ってこれたなと不思議に思わないわけにはいかない。そしてそこにこそ、柳井正という経営者の最大の強みがあるのだと思う。つまり決して深追いせず、傷は浅いうちに必ず止めているのだ。彼はこう述べる。

何度も言うが、当社は今まで、失敗を繰り返しながら成長してきた。考えて実行して、失敗したら引き返し、また挑戦する。失敗を失敗と認めるのは、自分の行動を客観的に分析・評価することができないと難しい。失敗を失敗と認めずにいると、だらだら続けて傷口が広がってしまう。無駄なことだ。



それは頭では分かっていてもなかなかできることではない。事業への思い入れもあれば、面子を大事にしたい気持ち、失敗や撤退を認められないプライドなど、決断を鈍らせるものなど幾らでもある。それが柳井にはない。恐ろしいほど、ない。だから決断が早く、早いからこそ致命傷には至らない。そして、撤退の線引きが明確にあるからこそ、攻めるときは積極果敢に攻め込む。恐ろしいほど、攻める。だから彼は予想外に安定成長志向だった玉塚社長体制には満足できず、もう一度自分で指揮をとることになった。

もう一つ、柳井の決断の早さそしてブレのなさの要因となっているのは、将来の大きな目標から現在を捉えていることだろう。2020年に売上高5兆円、経常利益1兆円をグローバルな目標に掲げる同氏にとっては、例えば20数億円程度の投資で済んだ野菜販売事業など何のことはないのだ。対前年比で増収増益といった短期的な視点からはなかなかできないような意思決定も、中長期で考えているからこそ迷いなく決断・断行できるのである。

そして僕はここでも、柳井正と研究者・石井裕とのオーバーラップを見るようだ。石井は自分の死後100年経っても残るものは何かと考える。そしてその視点がオリジナリティのあるビジョンへと結びつく。彼はまた、自分のアイデアの大半がゴミだと言い切る。「研究者とは自分のアイデアを愛す生き物であり、その愛そのものがアイデアの発展の障害ともなる」という彼の台詞は、研究者を経営者に、アイデアをビジネスに置き換えてみると、それこそが柳井正の言葉であるように聞こえてはこないだろうか。合理的としばしば評される両者はしかし、将来咲かせる夢を大きく思い描くロマンチストでもあり、ロマンとソロバンの両立をまさに体現して見せてくれているのだ。




マスコミに持ち上げられたり、ブームが去ったあとには一変して叩かれたりした同社に対し、紆余曲折が激しいイメージを持っている人も多いはずだ。確かに本書を読むと、同社には数々の失敗や停滞期があったことがうかがえる。しかし同社の特徴は、失敗を恐れない姿勢にある。失敗から学習し、すばやく方向転換をしていくその経営姿勢は、失敗をそのまま放置したあげく、倒産にいたる大企業とは根本的に異なっている。成功に関する考え方もユニークだ。「成功するということは、保守的になるということだ。商売というのは、現状があまりうまくいかないときに、『だったら、どうやればうまくいくのか』ということを徹底的に考えるということであり、成功したと思った時点でダメになるのだ」という言葉は、現在も海外進出や新規事業に果敢に取り組んでいる同社の本質をうまく言い表している。





2010/10/01(金) | Books | トラックバック(0) | コメント(0)

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