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ファンシーでファニーな Sports Economics

いま読んでいる "Scorecasting: The Hidden Influences Behind How Sports Are Played and Games Are Won" が抜群に面白い。ファイナンスを本業とする著者、シカゴ大学教授 Tobias Moskowitz が(その趣味に)本気で取り組んでいるからこそ、面白いワケである。


Scorecasting: The Hidden Influences Behind How Sports Are Played and Games Are Won


そんな本書は2012年6月に『オタクの行動経済学者、スポーツの裏側を読み解く』として翻訳出版された。


それにしても、経済学(および統計学)とスポーツ(とくに野球)は、本当に相性がいいね。Sports economics 関連の書籍も多々あるし、学会誌で特集が組まれたりもする。その上、僕は前学期、その Sports Economics の授業のTAをやっていたのである。学部初級の授業だったが、経済学的な考え方でスポーツ界の経営や競争、雇用契約を分析するという趣旨の授業で、なかなかにユニークな内容であった。


さて、本書 Scorecasting は、あえて日本の類書を挙げるとすれば、プロ野球解説者の解説内容に鋭くかつ面白おかしく迫った『野球人の錯覚』。これは、熱烈阪神ファンの著者二人(やはりファイナンス専門の経済学者)が、「チャンスの後にはピンチが来ますから」とか「四球やエラーで試合の流れが変わりましたね」みたいな、解説者のゆる~い言葉を統計的に検証していくというもの。その視点には、ときに大笑いし、ときに苦笑いする。

Scorecasting は、より『ヤバい経済学』に近い内容で、個人的に最も面白く読んだのは、"第7章: Why .299 hitters are so much more rare than .300 hitters"。日本プロ野球でもメジャーリーグでも、3割バッターというのは一つの勲章である。だから、シーズン最終戦の最終打席、打率3割ちょうどの打者は、打率をキープするために代打を出すことは日米ともによくあること。さて、それでは3割目前の、.299の打者は最終打席どうするのか?というのがこの章のクエスチョン。

「バットを思い切り振っていく」という予想がデータで裏付けられたのはもちろんなのだが、四球を選んだ打者がデータの中に一人もいなかったというのは、それだけバッターの「思い切り」が表れている証だろう。もう一つ興味深いのは、その思い切った結果なのだが、最終打席の打率は極めて高いということだ。何と、シーズン最終打席を打率.299で迎えたバッターの、その打席での打率は.430とのこと。「3割バッター」の称号を得るためとはいえ、すごい集中力 & 火事場のクソ力じゃあないか!

この結果はもちろん、7勝7敗という運命の分かれ目で大相撲千秋楽を迎えた力士の勝率を分析した『ヤバい経済学』を思い起こす。と同時に、レヴィットが相撲の八百長疑惑にまで踏み込んだように、本書でもメジャーリーグの八百長に切り込むのか?と期待は高まるが、それももう既に検証済みで、データからはそのようなことは何も言えなかったそうだ。


その他にも、「タイガー・ウッズの技術も一般人と変わらんよ」と指摘する章や、「サッカーのホーム試合は本当に有利なのか」というクエスチョン等々、経済学者(学徒)以外にも、そして野球ファン以外にも面白おかしく読める内容だ。ウォールストリート・ジャーナルが本書を紹介する際に、「『ヤバい経済学』と『マネーボール』との出会い」と形容したのは、まさに言い得て妙。

その『マネー・ボール』も、金融業界出身で『世紀の空売り』や『ライアーズ・ポーカー』等、ウォールストリートを舞台とした物語を得意とするマイケル・ルイスが著者。でも、一連の著作の中で一番ワクワクしながら読んだのは、彼の専門である金融ではなくて、データを活用して球団を鮮やかに再生させたこの物語『マネー・ボール』だな。本書 "Scorecasting" や『野球人の錯覚』もその例に漏れないが、金融専門家のスポーツ好きは顕著ですなあ。と同時に、彼らの本業であるファイナンスよりも、趣味である(はずの)スポーツの方に俄然ちからが入っているように思えたりするのは、大変に人間的であり、ファンシーであり、そしてファニーである。

そうそう、英語版でももう一度『マネー・ボール』を楽しんでみようかと、今回は Audio Book を買ったのだが、なんと著者本人がナレーションまでやってるのね。力入れてるなあ。


超ヤバい経済学 マネー・ボール (ランダムハウス講談社文庫)



2011/05/12(木) | Economics | トラックバック(0) | コメント(0)

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