若き経済学者のアメリカEconomics ≫ ギャンブラーな数学者と統計学者たち

ギャンブラーな数学者と統計学者たち

スポーツ以上に統計学と関係が深いのは、やはりギャンブルであろう。「人間とは賭け事をする動物である」。そう表現してもいいと思えるほどに我々を熱く、そしてときに冷たく狂わせてきたギャンブル。その歴史はまた、確率と統計の歴史でもある。『ギャンブラーの数学』は、新石器時代に端を発する壮大なギャンブルの歴史をテーマとした、ジョセフ・メイザーの新著。前作『数は科学の言葉』や『数学と論理をめぐる不思議な冒険』で数論の歴史を編み上げたこの数学者は、実は筋金入りのギャンブラーでもあったのだ。


ギャンブラーの数学―運をうまく使いこなすにはどうしたらよいか?

同様のテーマで書かれた書籍はいくつかあるが、本書が際立って差別化できているのは、直近のトピックとして、2008年の金融危機をギャンブル的な視点から解説したこと(第5章)と、なぜ負けると分かっていても人はギャンブルにはまるのか、を行動経済学的な側面から説明している点(第11章以降)ではないだろうか。

とくに、CDS(credit-default swaps)で大儲けしたヘッジファンドのトレーダー、ジョン・ポールソン(『史上最大のボロ儲け』)を引き合いに出し、金融危機が CDSギャンブリングによるものだという指摘は、金融関係者からではなく数学者から聞くのは新鮮であり、それだけ読む価値は高い。

そしてその金融危機の話は、ギャンブルの人間心理を紐解いていく第12章で再び取り上げられる。ギャンブル中毒者に対し、いつやめるべきかと指南する著者は、それと同じ気持ちでウォール・ストリートに警告を発しているのだろう。謝辞の中で、一度は書き上げた本書に2008年金融危機のくだりを後から追加したという告白は、それを裏付けているように思える。

そんなギャンブルについて、同じように刺激的に読めるのが、『その数学が戦略を決める』と『運は数学にまかせなさい』の二冊。前者はとくに、データ分析のビジネスへの応用が興味深い。例えばワインの市場や、ハリウッド映画のマーケット。こうした業界は伝統的に「職人」や「アーティスト」が意思決定する世界であり、ゆえにデータを基に決断するどころか、そもそものデータがなかったりもする。ギャンブルとは言わないまでも、大当たりか大ハズレか、開けてみるまで分からないという「バクチ的」な商売だったわけである。だから・・・、大量データを用いてリスクマネジメントするだけで大儲けできる可能性が大きいワケだ。

関係するヘッジファンドのコメントがそれを如実に物語る。「われわれは市場のちょっとした不完全性を見つけることで儲けるんだ。通常、そういうのは小さいし、滅多にないし、すぐに市場の効率性で埋められてしまう。(中略) (ハリウッドは)われわれにはすばらしい機会なんだよ。しかもこれは見たこともないくらい長続きしそうな機会だ」。

『運は数学にまかせなさい』は、カジノの話が面白い。ルーレット、ブリッジ、ポーカー、ブラックジャックといったお馴染みのゲームを題材に、具体的な確率や配当を数字で示しつつ、なぜカジノ側が必ず儲かるようになっているのか、そのカラクリを明らかにしていく。心理面の解説はないが、ラスベガスやマカオで遊んでみようと思うなら、確率の基礎知識として読んでおいて、それこそ損はないかも?


その数学が戦略を決める (文春文庫) 運は数学にまかせなさい――確率・統計に学ぶ処世術 ((ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ))




2011/05/14(土) | Economics | トラックバック(0) | コメント(0)

«  |  HOME  |  »

コメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURL
http://theyoungeconomist.blog115.fc2.com/tb.php/317-f876430a
 |  HOME  |