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明治の国づくりと人づくり

アメリカに留学していて一番の幸せを感じるのは、週末の夜に日本酒を傾けつつ、大量に買い込んだ日本語の本を一冊一冊大事に読んでいるときである。これはもう日本人留学生に共通する幸せな時間と言って間違いない(よね?)

今読んでいるのは、星新一『明治の人物誌』。城山三郎が次のように解説しているように、まさにそんな留学生活の週末にぴったりの一冊なのだ。

とにかく、「一種の怪物」とか「珍種」と呼ばれる男たちの勢揃い。
破天荒というか、風変わりな男たちが次から次へと登場し、酒でも酌み交わしながら、一夜、話を聞いてみたくなる。



登場するのは、次の10人の男たち。中村正直、野口英世、岩下清周、伊藤博文、新渡戸稲造、エジソン、後藤猛太郎、花井卓蔵、後藤新平、杉山茂丸。

もし全員の素性を知っていれば相当な歴史マニアと言える人選であろう。何しろ歴史小説の多い城山三郎でさえ、「私のような仕事をしている者でも、その姓名だけでは、すぐに思い当たらぬ人もある」と評しているのだから。共通点は一つ、星新一の父親、星一と深い関わりがあった、ということなのである。

以前書いたように、星一は1894年、横浜からサンフランシスコへ渡り、その後コロンビア大学で統計学を学ぶ。資金面や交友関係など様々な困難が降りかかってきても、いつも笑顔とやる気とアイデアでそれらを乗り越えるバイタリティには、読んでいるこちらまで勇気付けられるようだ。帰国後は、国のため人のためになる事業をと考え製薬会社を起こす。それが星製薬。製造プロセスの近代化に積極的に取り組み、当時リスキーと考えられていた新商品の開発にも果敢に乗り出す。星の読みは当たり、情熱は結実し、事業は飛躍的な成長を遂げる。そして彼は、星薬科大学の創設者としても歴史に名を残すこととなったのだ。彼が「若き起業家」としての才能をいかんなく発揮したこの青春ストーリーが『明治・父・アメリカ 』。ショートショートの旗手・星新一が、自分の父親を題材に取り組んだ長編傑作である。

それにしても星製薬とは当時、それこそ“自由闊達にして愉快なる理想工場”だったのではないだろうか。星一の底抜けの明るさとチャレンジ、そして人一番の努力で次々と新しい事業を生み出していく「陽気なエネルギー」には、そう強く感じさせるものがある。しかし、その成功をやっかむ競合が現れる。規制緩和を求める星を毛嫌いする官僚が立ちはだかる。そんな競合と官僚が手を組み、次第に星を追い詰めていく様は、続編『人民は弱し 官吏は強し』に詳しい。

本書『明治の人物誌』に出てくる10人とは、星一の挑戦が上手くいっているときもそうでないときも、変わらずに星の支えになった人物なのだ。同郷の友人や、星製薬の経営の支援者、人生のよき理解者。そんな一人一人の物語は、『明治・父・アメリカ』と『人民は弱し 官吏は強し』からのスピンアウトストーリーという体裁をとりつつも、それ以上にこの10人の魅力的な人となりを伝えている。個人的に一番びっくりしたのは野口英世。真面目一徹のイメージがあったが、まさかこんなにも豪快に飲んで遊ぶ御仁だったとはな。一番印象に残ったのは、本書でも最も多くページ数が割かれている後藤新平の章。もちろん、それ以外の章もそれぞれに個性的である。城山が評するように、そりゃあ日本酒がすすむワケだ。


明治の人物誌 (新潮文庫)




2011/05/22(日) | Books | トラックバック(0) | コメント(0)

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