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日本の鉄道はなぜ世界で最も正確なのか?

先日書いたように、英語→日本語への翻訳書がなくても何とでもなりそうなものだが、その逆の日本語→英語はもっと翻訳出版してもらいたいといつも思っている。本当にニーズはないのだろうか?ジャパン・アズ・ナンバーワンどころか、ナンバー2でもない現代においては、確かに経済・経営書に対するニーズは少ないかも知れない。でも、社会・文化に根ざした「日本的なるもの」に対しては、今も海外からの強い興味・関心があったりするのではないだろうか。ただ海外で紹介されるのがいつもいつも、村上春樹であり、村上隆であり、そしてクールジャパンと一括りにされる漫画・アニメであるというのが、僕には若干残念であるのだ。他にもイロイロ面白いことあるじゃねーかと。

例えばアメリカで生活していると、電車を始めとする公共交通や、郵便・宅配サービスのお粗末さに辟易することしばしばである。電車の出発・到着から、配達時間のいい加減さまで、なぜ正確な時間でものごとが進まないのかと、つい憤ってしまう。しかし、アメリカ以外の国でも事情はそう違わないように、実は世界の中でも日本だけが異常なまでに時間感覚が発達しているのである。しかしなぜ日本だけがそれを成し遂げたのか?そんな高度なタイムスケジュールの謎に迫った『定刻発車 -日本の鉄道はなぜ世界で最も正確なのか?』なんかは、翻訳されれば海外でも興味を持って読まれると思うんだけどなあ。

本書の面白さは、時刻表づくりといったテクニカルな面だけでなく、江戸時代の参勤交代にまで遡った歴史的な視点にある。戦がなくなった平和な時代、武功ではなく管理すなわち「マネジメント」が下級武士を出世へと導いた。その中でも参勤交代は、時間および予算規模の大きさ、そして我が藩の権威と格を見せつける対外的アピールという面からも、絶対に失敗の許されない「プロジェクト」であったのだ。北の津軽から南の薩摩まで、全国津々浦々の「プロジェクトマネジャー」たちの手配(行進・休憩・食事・宿泊・トラブル対応等々)に、現代日本に張り巡らされた鉄道網とその安全確実な運行の源流を見るのは、極めてユニークで秀逸な視点だと思う。

本書のように、日本なら当たり前と思っていることを「なぜ?」と改めて問い直し、深く掘り下げた分析というのは、まずもって日本人にとって新鮮である。「なぜ日本人は電車が2分遅れるだけでイライラするのか」とは、定刻発車に慣れきってしまった僕らが普段考えることさえしなかったことなのである。だからこそ心地良い驚きがあるのだ。だとすれば常々「なぜ日本人は・・・」と同じように考えていた外国人には、それ以上の好奇心でもって読まれると思うんだけどね。それにそんな翻訳書が出ると、アメリカの友人・知人に諸々と説明するのも助かるんだよな。なにしろ江戸とか大名とかの話から始めなくても、「これ読んでみなよ面白いから」の一言で済むんだから。


定刻発車―日本の鉄道はなぜ世界で最も正確なのか? (新潮文庫)




2011/08/15(月) | Books | トラックバック(0) | コメント(0)

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