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ベースボールの統計学

話題の映画『マネーボール』が先週末から公開された。原作はもちろん、『ライアーズ・ポーカー』『世紀の空売り』等のベストセラー作家マイケル・ルイスが2003年に出版した同名のノンフィクション。以前にも書いたが、彼の著作の中で僕が個人的に最もワクワクしながら読んだのは、ウォール・ストリートを舞台としたものではなく、データを活用して弱小球団アスレチックスを鮮やかに再生させたこの物語だ。しかし実はその戦略は、金融界と野球界に共通するものである。すなわち「市場で過小評価されている選手(株式)を競合に先駆けて見出す」というもの。

従来のスカウトマンたちは、打者であれば本塁打数を、投手であれば球速を、そして一般的にはガタイのいい選手を重視する傾向が強かった。しかし、そういう派手な選手は各球団からの注目度が高くその結果として契約金も高騰し、貧乏球団アスレチックスには手が出ない。だから球団ゼネラルマネジャーのビリー・ビーンは、チーム編成にあたり「真に勝利に貢献し、かつ他球団が見向きもしていない選手とは?」と考え、新たな評価指標を開発する。そして、四球やエラーも含めて出塁率の高い打者、長イニング投げられリリーフを休ませられる投手に価値を見出した。さらには、大学生よりも格段に年俸を抑えられる高校生にターゲットを絞っていった。伝統的なチーム作りに慣れたスタッフたちからの反発を買いながらも、ビリーはその戦略を実行に移してチームを一新し、そしてそれこそフィクションのようなサクセスを見事に成し遂げる。

そんなシンプルでビューティフルな物語が魅力なんだから、主演にブラッド・ピットを起用しなくてもよかったのにね。映画公開に合わせて、New York TimesWall Street Journal も特集記事を組んでいる。とくにWSJの記事タイトルが "Baseball After Moneyball" となっているように、本作が出版される前と後では球団経営の視点が大きく変わり、今ではセイバーメトリクスという呼称と概念が当たり前となった。関連書には『メジャーリーグの数理科学』や、日本の『野球人の錯覚』等があり、特にアメリカでは数多く出版されている。また、最近出版された『プロ野球を統計学と客観分析で考えるセイバーメトリクス・リポート』は、より本格的な内容だ。





本作『マネーボール』は、胸踊る極上のエンタテインメントであると同時に、メジャーリーグそのものに新たな時代をもらたした、そんな記念碑的な一作なのである。熱烈なブラピファンはぜひ映画を、それ以外の方々は原作で楽しむのがよろしいかと。









2011/09/27(火) | Books | トラックバック(0) | コメント(0)

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