若き経済学者のアメリカAmerica ≫ 宗教観の衝撃

宗教観の衝撃

この家族と話す中でもう一つ衝撃的だったのが、彼らの宗教観だ。彼らは、信じるキリスト教の中で大きく分ければプロテスタント、その中でもさらに「福音派(Evangelical)」と呼ばれる層に属する。ブッシュ現大統領自身がこの宗派に属するということもあり、日本でも広く知られるようになった言葉だ。ただ、日本ではキリスト教原理主義といった文脈で使用され、「負の印象」を与えているのも事実だろう。「右派」や「ネオコン」という言い方に特別な意味が込められて報道される。そして、それはアメリカでも同じなのだという。メディアの中で本来の意味とは異なる使われ方をされているのだと、この老夫婦は嘆く。彼らによれば、聖書に忠実という意味で、"Bible-believing" というのがその本質なのだ。

アメリカの原理主義 (集英社新書) アメリカの宗教右派 (中公新書ラクレ)

そして、それがあまりにも聖書に忠実過ぎるという点で、僕には驚きだったのだ。アメリカでは生物の進化論を認めず、神による創造論を認める人々がいるということや、それが過去には進化論裁判として、近年ではインテリジェント・デザインとして社会的に議論されてきたトピックだとは知っていた。以前紹介した『アメリカン・コミュニティ』でも著者が「カウンター・ディスコース」の一例としてこの話題に触れている。そう、ここでも僕は「知って」はいたのだ。そういう議論があるということをニュースの一つとして。しかし、まさに目の前にいるこの老夫婦が進化論を認めていないのだと知って、改めて強い衝撃を受けたのだ。

"Do you believe evolution or creation?" という、老旦那からの問いかけで始まった僕らの会話。こんなときはどう対応すべきなのか、非常に迷った。それは科学ではないよと批判するのも、あなたたちは間違っているというのも、この場には相応しくなかっただろう。"Basically, I believe evolution, because I learned the theory in the class." くらいしか返しようがなく、後は聞き役に徹するのみだった。

彼ら自身も、彼らが信じるものが、多くの科学者から否定されているというのは承知している。それでも、生命や宇宙の創造者/設計者が「いない」ということもまた科学的に証明されたわけではない、ということを根拠に信じ続けているのだ。その根っこにあるのが死後の世界観、すなわち、Hell or Heaven である。自分たちの死後、神の元に召されるよう、彼らは今日も聖書を読み、祈りを欠かさず、教会に通い続ける。

日本ではこういう人々がいるとメディアを通じてしか知らなかった思想と生活だ。そこに少しの間だけでも一緒にいさせてもらえたというのは貴重な経験だったと思っている。何よりも、「原理主義」「右派」といったラベルからは決して分からない、個々人の顔が見える。そしてその顔は、極めて穏やかで優しいものなのだ。彼らには訪れるたびに大変よくしてもらっている。とてもいい人たちで話していても食事に行っても楽しい。その彼らの個人的な価値観を知ったのは今回が初めてだ。えっと驚き、どきりとしてしまったのは事実だ。知らなくてよいことを知ってしまったのではと後ろめたい気持ちも若干あった。それでも、こうした人たちがいるということを踏まえ、報道のバイアスを排し、彼らの考えをできる限り尊重した上で、これからも付き合っていけたらと思う。


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2009/01/11(日) | America | トラックバック(0) | コメント(0)

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