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日経・経済図書文化賞と新卒一括採用システム

今年の日経・経済図書文化賞には、太田聰一『若年者就業の経済学』および菅山真次『「就社」社会の誕生』が含まれた。若年層の失業率の高まりや、新卒一括採用の見直しが(僅かに)進む中にあって、極めてタイムリーなトピックと言えるだろう。

『若年者就業の経済学』の視点は、そのタイトルが示唆する通り、経済学的アプローチこそが、「なぜ新卒採用が日本企業で重視されているのか」「長期不況下でなぜ若年正社員採用がこれほどまでに停滞したのか」「若年者と中高年者は、仕事を奪い合っていると言えるのか」といった、労働市場メカニズムに関わる本質的な問いに対して有効な解答を提示し得る、というもの。

議論の中心となるのが第4章:企業による若年の採用、および第7章:教育と訓練。自社独自のスキルを労働者に身につけさせるため社内での人材育成を重視してきた日本企業では、若年採用・人的資本投資/スキル継承・企業業績が長年強く深く結びついてきた。経済成長時にはこの「フィードバック・メカニズム」が好循環となったものの、1990年代に不況へ転じると、今度はそのフィードバックが逆周りとなって若年正社員の採用が構造的に抑制されるようになり、それこそが現在まで尾をひく若年雇用問題の本質である、と著者は結論づける。佐藤・玄田『成長と人材』とも関連する議論と言えるだろう。

若年者就業の経済学


それではこの新卒採用を中核とする「日本的雇用システム」が一体いつ、どのようにして成立したのか?それを歴史的に紐解いた大作が『「就社」社会の誕生』である。日本の若年層の就職は、戦後、市場を通じた自由なジョブ・マッチングではなく、経済的・社会的な摩擦を極小化するという観点に立った職業安定行政によって計画・調整・指揮・統制された、というのが本書のメッセージだ。苅谷『学校・職業・選抜の社会学』とも重なる主張だが、とくに1950年代の中卒採用では職業安定所が、そして1960年代の高卒採用では学校が主体となって、農村から都市に向けて次々と若き労働人口を送り出していったのである。

日本の労働市場における象徴でもある新卒採用だが、実はその歴史はまだ浅いこと、そして日本全国を舞台とした大規模なジョブ・マッチングが一括した制度下で間断なく行われてきたこと、すなわち「集団就職」「就職列車」「民族大移動」といった当時のトレンドの背景にある事実を、制度という視点から明瞭に描き出したこと、そこが本書の読みどころなのである。当時の「集団就職」を行政側では「計画輸送」と呼んでいたという著者の指摘が、本書のエッセンスを十二分に言い表している。

「就社」社会の誕生 -ホワイトカラーからブルーカラーへ-




2011/12/26(月) | Books | トラックバック(0) | コメント(0)

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