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原子力発電の過去・現在・未来

もうすぐ東日本大震災から一年が経つ。しかし昨年の夏も年末も、日本に帰国する機会を逸してしまった僕は、まだ3.11後の日本を知らない。もちろんニュースは国内外メディアの報道をネットでいくらでも拾えるし、先日はCNNでもこの一年の動きを特集したりしていた。しかし、結局のところ「空気」だけは分からないのである。

その隙間を埋めようと、原発関連の本をまとめて読んだりしたのだが、そんな空気を掴むどころか、原発というものが益々捉えられなくなる。以下はそういう怪物と真正面から渡り合った書籍であり、正直読んで気が重くなる。しかし原発の未来を考えるならば、その誕生と成長、創造と破壊の歴史からスタートしなくてはならなようにも思うのだ。

1.ジャーナリスト・田原総一朗が迫る原子力発電

まずは田原総一朗の渾身の二冊。朝生の司会者というレッテルで彼を見ていた(僕を含めた)人は、本書の迫力ある取材に、そしてこれらを三十年も前に出版していたという先見性に驚くほかない。読み終えた僕の最初の感想は、「よく殺されなかったな」というもの。彼が現在も事あるごとに口にする「殺される覚悟で取材している」という言葉がホンモノであることを思い知る。『原子力戦争』の解説で野坂昭如はこう書く。

田原総一朗が、「原子力戦争」を、雑誌「展望」に連載しはじめた時、ぼくは、(中略)ある危惧をいだいた。いろんな意味で「大丈夫か」と感じたのだ。


実際本書には、名前のないマンション・盗撮・尾行・密会・黒尽くめの男たち・メディアと広告・地元下請け、そして港に浮かぶ死体と、まるで推理小説のような舞台が設定される。「ドキュメント・ノベル」という体裁を取ってはいるものの、それを裏付ける経験がなければ絶対に書き得ないであろう、ジャーナリスト田原の覚悟の一冊。


『ドキュメント東京電力』は、東電国有化の議論の際に踏まえておかねばなるまい、国家対電力会社の壮絶な闘いの歴史を記録したもの。「はじめに」で田原はこう書いている。

東京電力の創業的経営者であった木川田一隆は「原子力発電は悪魔のような代物だ」と公言していた人物であった。その木川田が原子力発電を建設する、いわば「悪魔と手を結ぶ」ことを決断したのも、さまざまの理由はあったにせよ、主導権を通産官僚たちに取られることなく、民間の電力会社が握るためであった。


この「ファウスト的契約」によって、豊富なエネルギーを得たのと引き換えに、潜在的破壊的危険性を抱え込んでしまっていたということを、その出版から三十年を経て、そんな契約自体を忘れそうになっていた2011年、僕らは不幸な形で思い知ることになる。


原子力戦争 (ちくま文庫) ドキュメント東京電力―福島原発誕生の内幕 (文春文庫)



2.ノンフィクション作家・佐野眞一が追う東京電力

そんな「悪魔のような代物」を日本に持ち込んだのが正力松太郎。プロ野球の生みの親にして、巨人軍の元オーナー。昭和三十四年のプロ野球・天覧試合を企画・演出した仕掛け人であり、長嶋茂雄の劇的なサヨナラホームランを昭和天皇の背後の席からじっと見つめていた男。そしてまた、民放テレビの始祖であり、原子力発電の推進者。「読売新聞、日本テレビ、巨人軍の上に君臨し、大衆の欲望を吸い尽くした男」。

ファンもアンチも多い佐野眞一だが、個人的には本書『巨怪伝』は彼の最高傑作ではないかと思う。昭和の傑物である正力の波乱万丈の人生はそれだけで読者を惹きつける。その上本書のテーマ設定が単なる「私の履歴書」的な回顧を超え、「『庶民』というものが、いかにして『大衆』というものに変貌したのか」を追求していること、そこに政治から娯楽まで、大衆の欲望を熟知し、刺激し続けた正力の洞察と手腕が活写される。

あの「天覧ホームランを号砲とするかのように」高度経済成長の坂道を一気に駆け上がった日本。その裏にある、一人の人物によって次々と生み出された大衆文化に焦点を当てた、まさに一気に読ませる快作。と同時に、大衆の欲望をそれこそ強欲なまでに求め続けた「正力の欲望」はときに黒く、ときに暗い。読んでいても、人間はここまで貪欲になれるのかと影を射す内容でもある。

しかしそれにしても佐野眞一は、『東電OL殺人事件』では東電そのものを、そして新著『あんぽん 孫正義伝』では3.11後に真っ先に反原発を唱えた孫を対象とするなど、何の因果か東電そして原子力発電と深く結びついているのが印象的である。


巨怪伝〈上〉―正力松太郎と影武者たちの一世紀 (文春文庫) 巨怪伝〈下〉―正力松太郎と影武者たちの一世紀 (文春文庫)



3.アメリカ研究者・有馬哲夫が明かすアメリカの対日戦略

そんな、原子力の父にして、大衆文化のプロデューサー、正力松太郎。彼はアメリカCIAからコードネーム「PODAM」で呼ばれるほどにマークされていた、最重要人物の日本人でもあった、というのが以下の二冊。その書名と表紙デザインで明らかに損をしていると思うが、決して「陰謀論」の類ではない。

佐野眞一『巨怪伝』では描かれていない、アメリカ政府の親米・反共プロパガンダとその一端を担った正力の暗躍と暗闘を、アメリカ国立公文書館で公開された資料をもとに綴ったものである。日米の原子力政策の間に立ち、キーマンとなった正力はしかし、アメリカとの蜜月の後、彼がイギリスへ靡いたことで決別することとなる。

第五福竜丸や東京ディズニーランドと原子力の関連にも言及した「昭和裏面史」。他の原子力関係書とは全く別の視点だからこそ大変に興味深い。だけど、繰り返すけど、この書名と表紙のセンスだけは頂けない。


原発・正力・CIA―機密文書で読む昭和裏面史 (新潮新書) 日本テレビとCIA 発掘された「正力ファイル」 (宝島SUGOI文庫)



The Economist の最新号(Mar 10th 2012)で原子力発電の特集をしている。以下は世界の原発インタラクティブ・マップ。






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2012/03/05(月) | Japan | トラックバック(0) | コメント(0)

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