若き経済学者のアメリカEconomics ≫ 行動経済学にまなぶマーケティング・テクニック

行動経済学にまなぶマーケティング・テクニック

『その数学が戦略を決める』のイアン・エアーズの新著 "Carrots and Sticks" が出版されてたのね。物語は、行動経済学の知見をもとにしたプログラムとして近年注目(New York Times)を集める stickK.com 設立の話に始まる。コミットメントを重視したこのプログラムでは、例えば「3ヶ月で5kgダイエットする!」というゴールに対し、週次の達成目標だけでなく、その進捗を誰がチェックするかまで設定する。のみならず、なんと事前に罰金額まで申請しクレジットカード番号まで入力させられるのだ。だから参加者は本気で取り組む、それがプログラムの肝なのである。面白いなあ(自分ではやりたくないけど)。

stickK is designed to promote a healthier lifestyle for you by allowing you to create "Commitment Contracts." stickK was developed by Yale University economists who tested the effectiveness of Commitment Contracts through extensive field research.



Carrots and Sticks: Unlock the Power of Incentives to Get Things Done その数学が戦略を決める (文春文庫)


2012年10月に、"Carrots and Sticks" が待望の翻訳『ヤル気の科学 行動経済学が教える成功の秘訣』(山形浩生訳)として登場!


エアーズ自身がこの会社に関わっているため、若干宣伝気味ではあるのだが、本書にはそれ以外の興味深い事例も並ぶ。その一つが、オンライン靴販売ザッポスの「伝説」と「奇跡」。なぜこの企業が顧客からあれほど絶大な支持を得ているのか。それは、従業員選抜と教育によるところが大きいのだが、その採用方法が極めてユニーク。同社では新入社員研修の最終日に、なんと「いまここで $2,000 支払うので辞めてもらって結構」というオファーを出すのだ。実際にはほとんどいないのだが、それを受け取って辞めていくような「不良」社員はその場で排除できる上、そのオファーを受け取らなかった新入社員たちはその分まで一層仕事に励むという。そういう人間のサガを、コストをかけずにうまいこと経営に取り入れた、まさに好事例と言えるだろう。


顧客が熱狂するネット靴店 ザッポス伝説―アマゾンを震撼させたサービスはいかに生まれたか ザッポスの奇跡(改訂版)~アマゾンが屈した史上最強の新経営戦略~



もう一つ興味深かった例が、コーヒーチェーンおよびチャリティ募金における、キャンペーン実験。コーヒー店などでよく見かけるスタンプカードだが、下図の(A)と(B)では、一目見て分かる通り、一杯無料をもらうためには、どちらのカードであっても10個のスタンプを集めなくてはならない。その意味で同等の価値のはずなのだが、実際には(B)のタイプの方が「圧倒的に」キャンペーン効果が高かったのである。分かる分かる、なぜだかちょっぴり得した感じ、するもんね。

stamp_coffee.jpg



さらに面白い結果が出たのが、チャリティの募金を呼びかけた手紙。これも下図(a)と(b)の二つのタイプを用意したところ、今回は相手の属性によってどちらに反応するかが異なっていたのだ。既に募金経験がある人にとっては(b)タイプのメッセージで「あともう少しです!」というニュアンスを含ませた方が、逆に募金未経験者にとっては(a)タイプの「今これだけ集まっています!」という言葉が効果的だったという結果だ。

togo_charity.jpg



というように、行動経済学の知見というのはたいへんに「せこい」(苦笑)。でもこれだけはっきりと目に見える効果が出ているのだから、経営者・マーケッターならそれを使わない手はないだろう。オレが珈琲店のマスターなら、間違いなく今日からスタンプカードにあらかじめ3つは押しとくね。




2012/04/25(水) | Economics | トラックバック(0) | コメント(0)

«  |  HOME  |  »

コメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURL
http://theyoungeconomist.blog115.fc2.com/tb.php/431-b8dba7f9
 |  HOME  |