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佐野眞一の男性性と、桐野夏生の女性性

『巨怪伝』『東電OL殺人事件』、そして『あんぽん孫正義伝』と、何の因果か東京電力に関係する人物を描き続けている佐野眞一。その彼がとくに力を入れたのが、後年続編まで出した東電OL殺人事件だろう。彼は自負を込めて言う、自分は関係者でも数人しか知らない、被害者の墓の在処を知っていると。それは彼が文字通り足で稼いだ取材の賜であり、そしてジャーナリストとしての誇りなのだろう。

しかし、彼は東電OLの心理には結局一歩も近づけなかったように思う。これだけ精力的に歩き回りながら、なぜ佐野眞一は迫りきれなかったのか。それは、佐野の著書に見られる姿勢を「自分に理解できる感覚だけで理解しようとする」と評した佐々木俊尚(朝日新聞・書評)の指摘にも通じる。東電OLを「突き抜けた堕落」と初めから捉えていたからこそ、彼は最後まで何も捕えることができなかったと言えるだろう。

だが本件においては、それ以上にシンプルに、佐野が男性であるからという理由の方が本質的であるように思える。それを恐ろしい程に見せつけたのが桐野夏生だった。この事件と深く関連した『グロテスク』は、女子高を舞台とした残酷なまでの美と醜、「私を見て」でも「私を見ないで」という過酷な葛藤、そういう女性性の飢えと渇きをこれでもかと容赦なく突きつけてくる。

それは同じく彼女の初期の作品であり個人的にも桐野のベスト作と思っている、母親の飢えを描いた『柔らかな頬』、主婦の渇きを写した『OUT』においても強烈な生と性の臭いを発している。以降の桐野作品でその匂いが薄れていったのは、著者が世間に認められ、自身が持っていた飢えと渇きに潤いが与えられたからと考えるのは、それこそ佐野眞一と同様に「自分に理解できる感覚だけで理解しよう」とする極めてステレオタイプ的な感想であろうか。


グロテスク〈上〉 (文春文庫) グロテスク〈下〉 (文春文庫)

柔らかな頬〈上〉 (文春文庫) 柔らかな頬〈下〉 (文春文庫)

OUT 上 (講談社文庫 き 32-3) OUT 下 (講談社文庫 き 32-4)




2012/05/09(水) | Books | トラックバック(0) | コメント(0)

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