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英語の発想、日本語の発想

ひさしぶりに英語学習関連の本について。いまさらながら安西徹雄『英語の発想』を読んだのだが、これが素晴らしかった。翻訳に関する書籍を複数著している著者だけに、技術的な話が多いかと予想していたのだ決してそんなことはない。まさに英語という言語が内包する「発想の特質」をクリアに浮かび上がらせる。とくに日本語という言語と比較対照する一連の作業からは、むしろタイトルとしては『英語の発想、日本語の発想』の方が相応しいのではないか、そんな風に思わざるを得ない名作であろう。本書まえがきにはこう書いてある。

つまり本書は、あくまでも翻訳の現場からという立場に立って、具体的に翻訳のプロセスを点検し、そこでどんな転換が必要となるかを見ることによって、できればそこから対照言語学的に、日本語と英語の発想の対比を引き出してくることを狙いとしている。



だからこそ、英語学習の初期段階でこそ、こんな本を読んでおきたかったと、今さらながら思うわけなのだ。本書の第一章では、2つの例文を題材に、まずは英語と日本語を行き来する上での6つのポイントを指摘する。

第一に、英語では名詞で書いてあっても、日本語ではこれを動詞に読みほどいてやったほうが、自然や訳文を得やすい。第二に、英語では<もの>を主語にした構文になっていても、日本語では人間を主体にした表現に変えたほうが、ついて行きやすい。第三に、英語では、重要な情報は文章の前のほうにくるのにたいして、日本語ではむしろ、力点は文末にくる傾向がある。

第四に、日本語では、主語の働きは動詞によって果たされる面が多い。だから、わざわざ主語を表に出す必要のない場合が少なくない。第五に、日本語は一般に直接話法が得意である。ところが英語は、むしろ間接話法を得意とする。第六に、日本語では、物事全体が自然にそうなったというような表現を好むのにたいして、英語では、これを人間の「行動」として捉え、「動作主+他動詞+目的語」の形で表現することを好む。


以上であり、これらが続く章で詳説されていく。え、これだけ?と思うかも知れないが、実にこれだけである。そしてそれこそが本書ならではの分析視点なのだと思う。無生物主語とか、関係代名詞とか、受動態とか、そういう専門用語を使った解説ももちろん本文でなされる。でも、最後までまったくブレないのが、英語発想のポイントは以上の6点だと言い切る著者の姿勢なのである。

もちろん細かいことを言えば追加でいくらでも書き足すことができるだろう。文法のテクニカルな面では、例外だって多いはずだ。それでもなお英語発想の本質をぐいっと掴まえたような書きぶりは、読んでいて大変にすがすがしい。本書を読みながら思わず連想したが、まったく異なる分野とはいえ、料理の本質にざくざくと切り込んでいく、玉村豊男の『料理の四面体』。料理が、火・空気・水・油という中心要素から構成される四面体モデルで表現できるという玉村の思い切った言い方が、英語の特質は以上の6点だと喝破する安西に重なるのだ。どちらの書も、ごく少数の点を指摘するだけで、物事の本質を極めて効果的にあぶり出す。そんなユニークかつ鋭い視点で書かれた名著である。


英語の発想 (ちくま学芸文庫) 料理の四面体 (中公文庫)








2012/07/11(水) | English | トラックバック(0) | コメント(0)

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