今回のオバマケア合憲判決に見られるように、米連邦最高裁の判断が米国の社会を形作ってきた歴史は大きい。それと同時に、違憲か合憲かという最終ジャッジだけでなく、そのときどきの最高裁長官の思想的背景や、そのロジックもまた大きな注目を集めてきた。今回のオバマケアの場合は、ロバーツ長官が次のような意見を述べている。
(ロイター)2010年に成立した同法の根幹部分は、大半の米国民に2014年までの保険加入を義務付け、加入しない場合には罰金を課すというもの。全米50州のうち26の州、および中小企業を代表する団体などが違憲訴訟を起こしていた。
ロバーツ最高裁長官は「医療保険を取得しない特定の国民に対して罰金を課すことは、合理的に税金として位置づけられる可能性がある」とし、「憲法はこうした税を認めていることから、これを禁じたり、それに関する分別や公正さについて意見を述べたりすることはわれわれの役割ではない」との見解を示した。
最高裁の9人の判事のうち、ロバーツ長官を含む5人が支持、ケネディ判事ら4人が不支持だった。不支持とした4人は、医療保険改革法全体が違憲と判断した。
もちろんこの解釈に異論を唱える人は多く、だからこそ秋の大統領選挙に向け共和党が勢いづいているという側面はある。こうした世論を二分する最高裁判決という視点から米国史を読み直したのが、阿川尚之『憲法で読むアメリカ史』である。前に書いたように、訴訟社会であるアメリカならではの切り口であり、その他の米国歴史書とは全く違った一面を見せてくれる。具体的には、先住民から土地を強奪したことは合憲なのか、奴隷制度をどう位置づけるかといった歴史的なことから、経済活動に対する規制や、ブッシュ対ゴアの大接戦の2000年大統領選挙結果といったより今日的な事柄まで、国政を方向付けてきた憲法解釈を巡る最高裁判例が並ぶ。
これはまさに著者が指摘するように、最高裁の判例そのものが「アメリカ史の貴重な記録」であり、アメリカの「もうひとつの物語」でもあるのだ。著者がこの上下巻を出版したのが2004年、ぜひとも今回のオバマケア判決を含め近年の判決例をまとめた続編を出して欲しいと強く願っている。
2012/07/06(金) | America | トラックバック(0) | コメント(2)