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横山秀夫『64』と過去を直視する勇気

横山秀夫の7年ぶりの新刊『64』を読み終えた。『影の季節』『動機』など、警察署内の脇役に光を当てた傑作短篇が多い横山だが、この長編『64』はやはり読み応えがあった。




組織対個人、部署対部署、仕事対家庭。そういういくつもの対立軸を通して組織の不条理と組織人の葛藤を描き続ける著者は、本作『64』では、過去の自分対現在の自分という、もう一つの鮮やかな軸を用意している。被害者家族、容疑者、当時の捜査を主導した刑事とその部下、新聞記者、そして数多の事件関係者。その一人ひとりがこの十数年という間をどう過ごし、そして何を考え続けてきたのか。

主人公の三上にとっては、キャリアを重ねる過程で失ったものの大きさを痛感し、一方で得たものの尊さを実感する、そんな十年でもあった。こうした人生の浮き沈みを描き切るためには、ひょっとして著者本人こそが7年という月日を必要としたのではないだろうか、そんな風にも感じられる。横山秀夫の待望の新作は、そう思えるくらいの力作であり大作であり、間違いなく傑作である。横山が見せつける今回の人間ドラマは、これまで以上に渋く、そして苦い。


昭和64年に起きたD県警史上最悪の誘拐殺害事件を巡り、刑事部と警務部が全面戦争に突入。広報・三上は己の真を問われる。警察職員二十六万人、それぞれに持ち場があります。刑事など一握り。大半は光の当たらない縁の下の仕事です。神の手は持っていない。それでも誇りは持っている。一人ひとりが日々矜持をもって職務を果たさねば、こんなにも巨大な組織が回っていくはずがない。D県警は最大の危機に瀕する。警察小説の真髄が、人生の本質が、ここにある。





2013/01/26(土) | Books | トラックバック(0) | コメント(0)

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