若き経済学者のアメリカBooks ≫ 百田尚樹『海賊とよばれた男』と少年の大志

百田尚樹『海賊とよばれた男』と少年の大志

アニメ「宇宙海賊キャプテンハーロック」から漫画「ONE PIECE」、そして映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」まで、男の子ならば誰もが一度は憧れるのが海賊。僕らがこれだけ海賊と称される者たちに心を揺さぶられるのは、彼らが高らかに掲げる正義と、その志を貫き通す強さ、そして首領を信じて支え続ける個性的な部下たちという魅力があるからだろう。あえて現代に照らし合わせるならば、海賊とはすなわち、ミッション・コンピテンシー・チームパフォーマンスの全てを兼ね備えたプロジェクト組織と言えるのではないだろうか。

そんな海賊と呼ぶにふさわしい集団が日本にもいた、というのが百田尚樹の『海賊とよばれた男』で描かれる物語だ。安倍首相が愛読書として紹介したとか、本屋大賞ノミネートとか、そんな装飾の言葉など全くいらないほどに本格的な、骨太にして長大なストーリーだった。そして読んでいて何よりも心震えるのが、この物語がフィクションという形をとった99%のノンフィクションである、ということだろう。

本書の主人公である国岡鐵造のモデルとなっているのは、出光興産の創業者・出光佐三(参考:出光社史)。明治末期に石油と運命的に出会った国岡は、これから石油が世界を変えていくだろうという確信を持ち、零細商社での丁稚を経て自らの会社「国岡商店」を設立する。信念と努力の人で、創業の地である北九州から西日本一帯、果ては満州まで、石油の販路を飛躍的に拡大させていく。

そんな国岡商店が当時の常識で考えても「極めて異端」であったのは、質の高い石油を安く提供し日本の経済発展に貢献しようという国岡の「正義」と、石油流通を統制しようとする業界団体・政府・GHQに真正面から楯突く「強さ」、そしてそんな国岡に心酔して集まった社員たちの獅子奮迅の働き。会社経営に当たって国岡は「人間尊重の精神」を掲げ、社員を出勤簿やタイムカードで管理することはなく、戦争で何もかもを失った際にも一人の社員も解雇することはなかった。出光が長い間、株式を上場しなかったのもこの創業者の考え方による。


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そんな異端の石油会社が世界をあっと驚かせたのが、1953年の日章丸事件。国際世論の反発を受けながらも、イランの油田の所有権を主張し続けるイギリス。英国海軍による海上封鎖を恐れ、アメリカの石油メジャーも手出しが出来ない中、今こそイラン国民のために、そして日本と中東の架け橋になろうと、リスクを恐れずに自社の大型タンカーで真っ先にイランに乗り込んだのが国岡だった。

イランでは大喝采で迎えられたものの、そこからの帰路は常に危険と隣り合わせだった。それでもイギリス海軍の包囲網を掻い潜り、タンカーに満杯の石油を積んで日本に帰ってきた日章丸。それは敗戦で自信と誇りを失った日本国民を大いに奮い立たせるほどに、日本人の正義と勇気を世界に見せつけた大事件であった。

「正しいことをしたかったら偉くなれ」。そう言った『踊る大捜査線』の和久平八郎は確かに多くの組織と社会の本質を言い当てているだろう。だけど誰もが本当は「正しいことをやれ」と言って欲しいと思っており、そうあって欲しいと願っている。だからこそ、最初から最後まで、日本の石油業界にとって、そして日本の経済発展にとって「正しい」と思ったことをやり抜き、競合や政府の圧力にも屈しなかった国岡鐵造の生き方が、出光佐三の生き様というノンフィクションであるということに、『海賊とよばれた男』を読む者ひとりひとりの胸に刺さるのである。








2013/02/10(日) | Books | トラックバック(0) | コメント(0)

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