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コレラ感染とジョン・スノウと統計疫学

今年の3月15日は、ジョン・スノウの生誕200年ということで、いくつかの雑誌では "Happy 200th Birthday to a Mapmaker Who Changed the World" (Atlantic) という企画や "John Snow's data journalism: the cholera map that changed the world" (Guardian) といった特集が組まれた。

医師であるスノウが活躍したのが19世紀半ばのロンドン。当時大発生していたコレラに取り組み、その感染経路を特定したことで、疫学の父とも言われている。そしてロンドンのブロード・ストリートを調査して集めたコレラ感染死者のデータをプロットした以下の地図は、現代でいうところの Data visualization の魁として、今なお注目されているものである。


643px-Snow-cholera-map-1.jpg

そのジョン・スノウを取り上げたノンフィクションが "The Ghost Map" である。地域によっては住民の1割以上を死に至らせたコレラ。しかしそれ以上にロンドンを不安と恐怖に陥れたのは、コレラが「空気感染」するのか「水質汚染」によるものなのか、その感染経路が全く分かっていなかったことであり、それが当時のパニックに拍車をかけた。




空気感染だと考える世論が強まる中、頑なに飲料水こそが原因だと主張し続けたのが地元医師のスノウだった。彼がそう言い張った理由は、コレラ死者数を地図にプロットしてみると(上図)、同じ地域内であっても(すなわち同じ空気を吸っていても)、明らかに死亡が集中しているエリアとそうでないエリアがある、ということだった。そして、同じ道路の両側で死者数がこれだけ偏るのは、それぞれの側の住民が用いている井戸が違うからだと推論し、実際に問題視した井戸の使用を禁止することで、それ以上のコレラ感染拡大を抑えこむことに成功したのである。

スノウのこの調査と業績を取り上げたのは、もちろんノンフィクションだけではない。「ときには真珠のように」で紹介した統計学者のデイビッド・フリードマンや、「歴史学と経済学と Natural Experiment」で言及したジャレド・ダイヤモンド(『銃・病原菌・鉄』の著者)も、スノウの研究を先駆的なものとして取り上げているのである。


一方で、スノウの取り組みを、Data visualization の観点から評価しているのが、この分野のパイオニアである Edward Tufte。なにしろ、彼が著したデータ・ビジュアルの定番テキスト "The Visual Display of Quantitative Information" の中でも、スノウのコレラ感染地図が紹介されており、そこにインスパイアされてノンフィクションまで書いてしまったのが、"The Ghost Map" の Steven Johnson というワケなのである。

The Visual Display of Quantitative Information



200年の時を経てもなお、疫学者、統計学者、文化人類学者、そしてジャーナリストと多種多様な人々に影響を与え続けるジョン・スノウに、誕生日おめでとうと言うのと同時に、歴史に与えたその圧倒的な貢献に、改めて敬意を表したいと思う。




2013/03/29(金) | Economics | トラックバック(0) | コメント(0)

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