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今年の本屋大賞は『海賊とよばれた男』だったけど、アート・サスペンス『楽園のカンヴァス』もすごくよかった

今年の本屋大賞が昨日発表され、百田尚樹の『海賊とよばれた男』が大賞を受賞した。

(NHKニュース)全国の書店員たちの投票で選ぶことしの「本屋大賞」は、戦後の混乱の中から石油会社を一大企業に成長させた実在の経営者がモデルになった、百田尚樹さんの歴史経済小説、「海賊とよばれた男」が受賞しました。(中略)受賞について百田さんは、「モデルの出光さんや彼を支えた男たち、それに、昭和20年代に、日本を復興させようと努力していた人たちの生き方がすばらしかったから受賞できたのだと思います。ひとりでも多くの読者に彼らのことを知ってもらいたいです」と話していました。



以前書いたように、僕も大きく胸を揺さぶられた読者の一人だ。本書の主人公・国岡鐵造の生き方が、そのモデルである出光佐三という人物の生き様であるという、99%のノンフィクションだという事実に。本作を読んで、どうせ石油を入れるならと、ロードサイドで出光のガソリンスタンドを探す人が続出してもまったく不思議ではない。それくらい魅力的で、大きな人間だったのだ。

・百田尚樹『海賊とよばれた男』と少年の大志





『海賊』で初めて百田作品に触れた僕だったが、この作品に魅せられ百田尚樹のデビュー作『永遠のゼロ』に手を伸ばしてみたところ、これがまた涙が止まらなかった。戦う相手こそ違えど、『ゼロ』の主人公宮部も『海賊』国岡も、確固たる思想のもと戦い抜いた。その考えはときに多くの敵をつくり批判を招いたが、それ以上の仲間を得て次の世代に影響を残した。そんな彼らの生き様が、何よりも清々しい読後感として残った。同じ時代に、まったく別の分野で戦った宮部と国岡の物語は、あわせて一読をおすすめしたい。

・百田尚樹『永遠の0(ゼロ)』と清々しい一陣の風





今年の本屋大賞第二位の横山秀夫『64』。7年ぶりの新刊となった本書の中で描かれるのは、キャリアを重ねる過程で失ったものの大きさを痛感し、一方で得たものの尊さを実感する、そんな人生の浮き沈みを経た警察官。横山秀夫の待望の新作は、そう思えるくらいの力作であり大作であり、間違いなく傑作であった。横山が見せつける今回の人間ドラマは、これまで以上に渋く、そして苦い。(こういうハードカバー小説の新刊でも、今回の『64』のように、もっと電子書籍版が増えて欲しいものである。)

・横山秀夫『64』と過去を直視する勇気





一方で、本屋大賞第3位に輝いた、原田マハ『楽園のカンヴァス』は、僕にとっては予想以上におもしろかったという意味で、嬉しい発見となった一作。これもキンドル版があるのがグッド。美術館のキュレーター、オークションハウス、アートコレクター、そして美術盗難専門の警察官等々、これでもかと役者が揃った極上のアート・サスペンス。ルソー作の『夢』ばかりか、MoMAやテート・モダン、そしてサザビーズ等々、フィクションでありながらこうした実名が次々と登場するのは何ともリアル。

緊張感をもって展開するストーリーと同時に、細部に渡ってアート業界の薀蓄が散りばめられているが、それもそのはず、原田マハ自身がキュレーターとして美術館で働いた経験があるのだ。そんな著者のアートに対する愛情と熱情が一杯に詰まった本作は、今回の本屋大賞候補作の中で僕が最も新鮮な驚きと感銘を受けた一冊だったのである。

ニューヨーク近代美術館の学芸員ティム・ブラウンは、スイスの大邸宅でありえない絵を目にしていた。MoMAが所蔵する、素朴派の巨匠アンリ・ルソーの大作『夢』。その名作とほぼ同じ構図、同じタッチの作が目の前にある。持ち主の大富豪は、真贋を正しく判定した者に作品を譲ると宣言、ヒントとして謎の古書を手渡した。好敵手は日本人研究者の早川織絵。リミットは七日間―。ピカソとルソー。二人の天才画家が生涯抱えた秘密が、いま、明かされる。





そして、この『楽園のカンヴァス』を読んで思い出すのが、ノンフィクションとしてのアート・サスペンス。以下2つのエントリで書いたように、事実は小説よりも奇なり、とはよく言ったもので、現実世界におけるアートの盗作や贋作、そして偽の鑑定書などは『楽園のカンヴァス』以上にスリリングであるとも言えるだろう。『FBI美術捜査官』も『偽りの来歴』も、アートファン以外でも十二分に楽しめる傑作ノンフィクションである。


・アメリカ史上最大の美術品盗難事件、いよいよ解決か

・寡作と盗作と贋作のフェルメール


レンブラント、フェルメール、ノーマン・ロックウェル…美術館の壁から、忽然と姿を消した傑作の数々。潜入捜査でたくみに犯人をおびき寄せ、歴史的至宝を奪還する。美術犯罪捜査に命を賭けた男と、そのチームの物語。





美術界を震撼させた事件のドキュメンタリー。「来歴」とは美術品が作者の手元を離れてからたどった経歴のことをいう。美術品売買では重要な要素のひとつであり、作品そのものの質よりも来歴が価値を決めることも多い。この事件が過去の贋作事件と大きく異なるのは、犯人たちが作品だけでなく、来歴までも捏造したことにあった。







2013/04/10(水) | Books | トラックバック(0) | コメント(0)

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