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貧困大国アメリカ:超格差は越格差できるのか?

堤未果の最新刊『(株)貧困大国アメリカ』を読んだ。


前に書いたように、2000年代中頃から、格差/貧困/ワーキングプアという言葉が日本のメディアでたびたび使われるようになった。それと同時に、今まで無関係と思っていたアメリカの格差社会こそが日本の未来像ではないかという認識から、アメリカの現状をまとめた書籍が売れた。

・ベストセラーで振り返る日本の雇用・労働・就職のこの十年


それが2006年に出版された小林由美『超・格差社会アメリカの真実』であり、2008年の堤未果『貧困大国アメリカ』であった。今回の最新作『(株)貧困大国アメリカ』は、その2008年『貧困大国アメリカ』、そして2010年の続編『貧困大国アメリカ2』に続く、シリーズ完結編という位置づけだ。



『(株)貧困大国アメリカ』は、その書名が示唆するように、終始一貫して規制緩和/民営化/株式会社といったものに対する否定的なトーンでアメリカの現状が紹介される。章立ても、第一章「株式会社奴隷農場」、第四章「切り売りされる公共サービス」、第五章「政治とマスコミも買ってしまえ」等、近年の米国政治が人口「1%」の超リッチを優遇し、大衆である「99%」の生活を蔑ろにしている、という主張だ。

著者がとくに批判するのが米国の農業と食品業界。農業の株式会社化・農作物の金融商品化・食の工業化といった一連の流れが、地元小規模農家の生活を破壊し、食の安全性を脅かしていると指摘する。


全体としてもう少しトーンを抑えたほうが、ジャーナリストとしてよりよいルポに仕上げられたように思うのが読後残念に思った点だ。しかし、商品先物近代化法・食品安全化近代法・モンサント保護法といった近年の法案、ウォルマートやバイオ企業の成長、そして遺伝子組み換えや食肉生産用抗生物質の技術革新等々、個人的にはフォローしていなかった業界の最近のトレンドが分かるという点では興味深く読めた。

一方で、著者はアグリビジネスにページの大半を割きつつも、その他に教育・警察・消防・公園等の公共サービスの民営化にも言及する。しかしこれらは前2作と一部重なるトピックであり、本書においては雑多な印象を受ける。「完結編」と位置づけるならば、食と農にテーマを絞り、より深い議論をしてもよかったように思う。


また、本書『貧困大国アメリカ』シリーズと合わせて一読したのが、松井博『企業が「帝国化」する』。長年アップル本社に勤務した著者が、業界で一人勝ちし「私設帝国」化するグローバル企業を描写する。





個人的に興味深く読んだのが、アップル等ではなく、マクドナルドと食肉産業について。サンフランシスコ郊外でマクドナルド用の肉牛を生産する地帯からは悪臭が漂ってくるという。それはコスト削減のため、足元まで溜まった糞尿が清掃されることもなく、出荷時期がくるまで飼い続けられる肉牛によるものなのだ。

牧畜という「牧歌的」な言葉からは到底想像もできないほどに工業化された食肉産業は、堤未果の養鶏場のルポとも重なる。しかし、文章のトーンは松井の方が抑制されており、こうした「帝国」とこれから「どう付き合うか」を考えていく等、よりプラクティカルとも言える。


いずれにしろ日本の生活者にとっても、アメリカの貧困や格差、そして農業や食品業界の動向とは、今後ますます無関係ではいられない。その意味でも、いまアメリカで何が起こっているのか、それを知っておいて損はないだろう。






2013/07/22(月) | Books | トラックバック(0) | コメント(0)

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