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シンガポールの歴史-エリート開発主義国家の200年

もう12月なんだが、今年夏に学会で行ってきたシンガポールについて、忘れないうちに記録しておこうと思う。僕としては2度目のシンガポールなのだが、前回行ったのがもう10年以上も前になるだけに、今回見えた景色の多くが目新しく新鮮に写った。

まずはマーライオン。これはもう全く変わらないのだが、この像の向こうに見えるものが全く異なる。そう、マリーナベイ・サンズである。ショッピングモールにホテルそしてカジノまで、ここに出来た一大総合リゾートを目にするのは初めてだ。


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カジノには外国人は無料で入れるのだが、シンガポール人は有料となっている。その背景には、観光客にはどんどんお金を落として行ってもらいたいという思惑があり、一方で国民がギャンブルなんかに惚けてもらっては困るという懸念がある。だからこそこういうシステムとなっている。

リー・クワンユーが常々口を酸っぱくして述べているように、シンガポールは「気を緩めたらあの頃の漁村に逆戻り」という危機感が、今も根強く国家を覆っているように感じる瞬間でもある。





そんなカジノに僕ももちろん入場してみたのだが、これはなかなかの盛況ぶり。とくに中国系の人たちが煙草をふかしながら、結構な金額を投入し、カードやサイコロの目に一喜一憂している。一晩で相当なお金が動いているのだろうとは思っていたのだが、なんとギャンブル収入でラスベガスを追い抜くのも、もうすぐじゃないですか。


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さてそんなシンガポールだが、国家としての歴史はとても短い。マレーシアから追放される形で独立国家となったのが1965年。そこから更にさかのぼって、ラッフルズ・ホテルで知られるイギリス人ラッフルズが、シンガポール島を「発見」したのが1819年。つまり、この時点からの歴史を数えても200年に満たないのがシンガポールという国であり、それゆえにその後の経済的な急成長には目を瞠るものがある。

だから、今回の出張のおともに持参した本書『物語シンガポールの歴史-エリート開発主義国家の200年』は、大変に面白く読んだ一冊である。今年の出版ということで情報も新しく、2012年までのシンガポールの社会・政治・経済情勢がコンパクトにまとめられている。




一人当たりのGDPで日本を抜きアジアで最も豊かな国とされるシンガポール。一九六五年にマレーシアから分離独立した華人中心の都市国家は、英語教育エリートによる一党支配の下、国際加工基地・金融センターとして発展した。それは表現・言論の自由を抑圧し、徹底的な能力別教育を行うなど、経済至上主義を貫いた“成果”でもあった。本書は、英国植民地時代から、日本占領、そして独立し現在に至る二〇〇年の軌跡を描く。




日本からシンガポールへの出張・駐在・就職・留学そして移住が増えていると言われるなか、同国の国の成り立ちを知るには格好の内容と言えるだろう。おとといには、シンガポールで40年ぶりの暴動が発生した。この背景には、これまでの外国人移民政策に対する不満や、広がる貧富の格差等があると報じられているが、それは2011年の総選挙で現政権に批判が噴出したことから続くものであることが、本書を読むとよく分かる。


本書『物語シンガポールの歴史-エリート開発主義国家の200年』は、シンガポールの支配者が誰だったのかを基準に、イギリス植民地時代、日本占領時代、自立国家の模索時代、そして独立後は、リー・クアンユー時代、ゴー・チョクトン時代、そして現在のリー・シェンロン時代に時期区分して、それぞれの時代の動きと特徴を解説する。

先程述べたように、現政権のアキレス腱にまで言及している点が一つの読みどころであるが、その背景には著者がシンガポール駐在を経てシンガポール華人女性と結婚したというプレイベートが大きく影響していると思われる。その後も頻繁にシンガポールに帰省しては、ホテルではなく義母が住む公共住宅団地で過ごしていたという日常生活の経験は、声を大にして政府を批判することが難しい同国で、小声でささやかれる不満をすくい上げる一助となったのではないだろうか。


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マーライオンのみならず、同国の独裁的国家運営手法も従来とまったく変わらない。一方で国民生活は大きく変わり、富める者と貧する者とが明確に線引されるようになってきた。国民意識の変化が今後の国家をどう変えていくのか、もしくはやはりまったく変わらないのか、それがシンガポールという国家を展望する際の重要な視点となるだろう。

本書の終章では「シンガポールとは何か」と題し、シンガポール国家が抱える宿命的構造と特質、建国の父リー・クアンユーという存在、そしてアジアの一国として日本とシンガポールとの今後の関わり方について総括する。様々な意味でシンガポールに注目が集まる今こそ、読まれるべき内容だと言えるだろう。





2013/12/10(火) | Others | トラックバック(0) | コメント(0)

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