若き経済学者のアメリカArt ≫ メトロポリタン美術館と死生観

メトロポリタン美術館と死生観

今まで何度も機会がありながら、なかなか足を伸ばそうと思わなかったのが、ここメトロポリタン美術館だ。何となく億劫になってしまうのは、もうずいぶん昔に行った大英博物館と、少し前にも行ったルーブル美術館の経験によるものだ。ここであまり気分のよい思いをしなかったために、恐らくはメトロポリタン美術館も同じだろうと思っていたのだ。そして、やはり同じだった。憂鬱な気分で入館し、もっとユウウツな気持ちで帰ってきた。

イヤなことの一つ目は、収蔵品に対する収集欲だ。その典型が、ここメトロポリタンで言えば、エジプトのデンドゥール神殿に表れている。ひときわ広く、太陽光がガラス越しにもまぶしい一角に、その神殿は静かに佇んでいた。アスワンハイダムの建築により、ナセル湖の湖底に沈むはずだったこの神殿を、メトロポリタン美術館がエジプト政府から引き取ったとのこと。人類の文化遺産を守り受け継ぐという、その姿勢は素晴らしいし、讃えられるべきものだろう。しかし、僕個人にとっては、その大義名分を理解した上でもなお、このニューヨークのど真ん中に、エジプトの神殿を持ってくるという考えと行動に対し、違和感を拭えないのだ。エジプトの神々と僕とは、縁もゆかりもなく、当然面識もないのだが、この神殿に祀られているであろう彼ら彼女らに対し、ただただ「可哀想」という感情しか湧いてこない。彼らはアスワンのあの悠久の大地で(行ったことないけど)、ナイルの温かい水に浸されながら(触ったことないけど)、ダムの湖底で永遠の眠りにつきたかったのではなかったのか、と。

イヤなことの二つ目は、収蔵品の展示方法についてだ。メトロポリタンともなれば著名なキュレーターが企画に合わせ展示を担当しているのだろうが、著名だからといって見る者にとって気分のよいものになっているかどうかは分からない。そして大英博物館、ルーブルに続き、ここでもまた「西洋的なものの見方・並べ方」を目の当たりにし、眉間に皺を寄せざるを得なかったのだ。それが如実に表れるのが、日本の歴史について解説しているゾーンだ。ここメトロポリタンにも、日本の戦国時代を見せる一角があり、数々の甲冑が展示されている。その見せ方が、不愉快なのだ。一言でいうならば、品がないのである。安っぽい甲冑を、過度に華美に見せようとするのも気に入らないし、その隣に中世ヨーロッパの騎士像を並べるのも気に入らない。武士と騎士を比較させたいのだろうが、そこにある意図が理解できない。ここにあるのは、武士でも侍でもなく、サムライどころか、アメリカ人が勝手に考えた「SAMURAI」でしかない。きっと寿司屋で、SAMURAI roll なんて名前で登場しちゃうような軽い存在だ。トム・クルーズのラストサムライが愛らしく思える程に、このメトロポリタンのSAMURAIには心がないのだ。これはボストン美術館と比較すると一層際立つ。ボストン美術館は館内を歩いていてとても気持ちがよい。品があるのだ。それは、20世紀初めに岡倉天心が、日本美術部に勤めていたことと無関係ではないだろう。ボストン美術館のキュレーターと話してみると分かるが、彼らは岡倉の考え方に対し今なお理解が深い。だからこそ一つ一つの展示が気持ちよいのだ。

イヤなことの三つ目、最たるものは、死者に対する念だ。端的に言うならばミイラに対する取り扱いが、ロンドンでもパリでも、そしてここニューヨークでも、あまりにも敬う気持ちに欠けているのである。そもそも、ミイラを "funeral art" と表現しているのには唖然としてしまう。そして、記念写真の行列だ。ミイラと少年、ミイラと老夫婦、そしてミイラと女子高生、と次々と笑顔でフラッシュに収まっていく。その光景が僕には耐えられないのだ。神殿に眠る神に対する畏敬の思いも希薄であれば、死者に対する真摯な想いもない。そしてこの違和感が強烈なのは、この行列に並んでいるのが、揃いも揃って、いわゆる白人だけだからである。その列には東アジア人も、インドもイスラムもいない。ヨーロッパかアメリカかは分からないし、ヨーロッパのどの国かも分からない。ただただ、ホワイツだけなのである。

僕はもう何度も見たであろうこの光景に出くわすたびに、あの列に並ぶことはないアジア人が持つ信仰心であったり死生観であったりするものを誇りに思う。世界の観光地にはどこに行っても、アジア人観光客が群れをなし、記念写真に明け暮れている。それをアメリカやヨーロッパは冷ややかに見て、数々のジョークで笑いのネタにしてきた。でも、僕らは逆に、美術館で見かけるこの光景を批判すべきなのではないだろうか。

こんな予想通りのイヤな思いをしてまで、僕はメトロポリタンに行かねばならなかったのだ。ここに保存されている、彼のたった数枚の作品を見るために。

P1000576.jpg




2009/09/28(月) | Art | トラックバック(0) | コメント(0)

«  |  HOME  |  »

コメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURL
http://theyoungeconomist.blog115.fc2.com/tb.php/79-228c47d8
 |  HOME  |